OLDIES 三丁目のブログ

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第24回「避けては通れぬ道」(6/20)〜局長不在時の土方の独断専行

 芹沢鴨佐藤浩市)の度重なる乱行に広沢富次郎(矢島健一)が激怒、土方(山本耕史)と山南敬助堺雅人)を呼びつけて、
「今度芹沢が何かやらかしたら、会津藩は手を引く」
と叱りつける。

 オープニングが始まる前に放送されたこの場面、初出の場面である。
 芹沢が大和屋を焼き討ちした次の回(第23回)は八月十八日の政変で芹沢の乱行は出てこなかったので、この政変の後の出来事かと思われる。

 土方と山南は芹沢を斬ることで一致、土方は山南に策を話す。

 後日、破れば切腹という厳しい法度が完成する。
「もう少しゆるくすれば……」
と言う近藤に、芹沢は
「よかろう。それが武士というものだ」
 もはや近藤に勝てるものは武士出身という出自だけだと思っている芹沢は、つい口をすべらせてしまった。この法度が後に自分の首を閉めることになるというのに。

 以前浪士組とトラブルがあった小野川部屋で、芹沢に斬殺された力士(熊川熊次郎(舞の海))の法要が行われるということで、近藤勇香取慎吾)はその打ち合わせに大坂に行く。その留守を狙って、土方が動き出す。

 最近、芹沢から冷遇されている新見錦相島一之)に、
「あの法度はある男を陥れるためのものだ」
と持ちかけ、又三郎殺害事件の真相
(第22回 屋根の上の鴨
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20040610
を教えてくれ、と言う。

 法度が掲示された夜、新見は、土方と山南に芹沢を裏切る発言をするが、実はこれが土方の罠であり、隣の部屋で芹沢が潜んでいたのである。

「士道に背くまじきこと」
に違反した、ということで、新見はその場で切腹を言い渡され、新見は潔く切腹

 しかし、このはかりごと自体が「士道に背く」ことではないか、土方先生。
 新見が仲間を陥れようとしたことが「士道に背く」ことなら、その新見に仲間を陥れようとさせた行為もまた、「士道に背く」ことではないか。
 さらに言えば、ある男を陥れようとして法度を作ったこと自体も「士道に背く」ことではないか。
 そもそも、近藤局長不在時に勝手に仲間を陥れて切腹させていいのか。
 ボス不在時の部下の独断専行!一部下の土方にそこまでする権利はない!副長格の土方も山南も新見と同格ではないか。せめて近藤局長が帰ってくるまで謹慎させておくべきではないのか。
 もちろん、筆頭局長の芹沢は、新見に切腹を命じている。
 しかし土方は近藤派であり、普段から近藤に従っている。直属の上司の指示を仰ぐべきではないのか。

 法度とは、全てのメンバーに等しく適用されるものである。
 しかし今回は、法度を作成した土方が自分に都合よく作成し・解釈して悪用した。
 まさしくこれが独裁というものである。
 公平な場で、新見と土方が言い分を述べて公平に判断すれば、土方が悪い、という判断もありうるのである。
 法を運用する者が自分に都合よく解釈するとどうなるか、ということがよく分かる事例である。

 芹沢が密談を聞いていたことを知った驚きのあまり、新見は頭が混乱して冷静さを失う。その場を去る芹沢に対して、
「芹沢先生!」
としか言えない新見。
 もしいつもの余裕があれば、何と言っていただろうか。
 芹沢が去ってから、ようやく元来の明晰な頭脳が戻ってくる。
「芹沢先生も馬鹿だなあ。俺が死ねば次は自分だということに気付かないんだから」
 と話し出すと、後はいつも以上に冴えを見せる。
「お前も足元をすくわれないように気をつけるんだな」
と山南に毒舌を吐く。
 芹沢にもこのようなことを言いたかったのだろうか。
「先に行って待ってる」
と言って介錯なしで潔く切腹した新見。

 同郷だということで、芹沢と行動を共にし、側近となった新見。
 斎藤一オダギリジョー)が又三郎に対して評したように、
「取り入る相手を間違えた」
のである。土方や山南をも脅かすほどの頭脳を持ちながら、実力を発揮できずに謀略で殺害されてしまった。新選組にとっても有為な人材のはずだったのに。
 内紛を最小限にするには、芹沢だけを斬って新見を始め芹沢派は全てお咎めなし、という選択肢もあったはずである。
 芹沢排除を確実に行って、しかもその後の争いの種も確実に摘み取る、というために、この方法を取ったのであろうが。
 また、近藤局長の側近として絶対的な権力を持ちたい土方にとっては、自分のライバルとなり得る頭脳派の幹部は少ない方がいいのだろう。
 芹沢の側近として権力を持っていた新見は、土方とライバルの位置にいる。
 芹沢亡き後、近藤派の中で自分とポストを争うようになればまずいので、切ってしまったのだろう。
 坂本龍馬や近藤局長が嘆くように、国が一つにならねばならない時に、小さな組織の中で争っているのだから大変である。
 
 この新見錦という人物、史実ではどんな人物か分からないが、このドラマではなかなかの人物として描かれていた。政治や文化にも通じた、浪士組一番の知識人である。その知識人が芹沢などという乱暴者とくっついたのが間違いだった。
 番組最後の名所紀行では、今回は永倉新八を取り上げていたが、新見錦を取り上げて欲しかった。しかし、永倉の回想記で、酒乱の新見を成敗したというような記述が紹介されていた。史実では酒乱だったのか。

 ともかく、このドラマでは魅力ある人物として描かれていた。
 私の大河ドラマ歴でいえば、隆大介の江藤新平翔ぶが如く)、榎木孝明の渡辺勝(毛利元就)と並ぶ、印象深い人物である。皆謀略による非業の死を遂げているな……。