百年読書会に参加するつもりが、読書とブログにかけられる時間が少なくなり、先月の『あ・うん』は時間切れで参加できず。
今月の『坊っちゃん』は何が何でも参加するんだと強行日程で参加させて頂きます。
本作品は単純に見ると、恋愛の三角関係が核にあります。
英語の古賀先生(うらなり君)と遠山のお嬢さん(マドンナ)が許婚の関係であったところ、古賀先生の父上が亡くなってからお人よしの古賀先生が騙されて家運が傾き、結婚が暗礁に乗り上げたところに文学士の教頭(赤シャツ)がマドンナを横取りし、赤シャツの陰謀でうらなり君が転任させられる。義憤を感じた坊っちゃんと堀田(山嵐)が赤シャツに天誅を加える、というもの。
それで、まだ恋愛を体験する前に読んだ頃は、うらなり君が気の毒、赤シャツはけしからん、というのが感想で、悪玉が善玉に退治されるクライマックスの天誅シーンを単純に楽しんでいたもんです。
そして坊っちゃんと山嵐をヒーローのように感じ、自分も大人になったらこんなヒーローになって赤シャツや野だいこのような悪人を懲らしめてやろう、と憧れ、その一方でうらなり君は単なる気の毒な脇役としか思わなかった。
その後数十年がたち、大人になってみると、どう考えても今の私はうらなり君なのだった。
筋肉少女帯の『元祖高木ブー伝説』という曲があったが、まるで「元祖うらなり伝説」である。
おれはうらなり君だ
おれはうらなり君だ
おれはうらなり君だ
まるでうらなり君だよ
高校・大学時代に精神状態が悪化したために人生を転落し、負け組・下流・経済弱者に落ちぶれてしまった。何かあれば真っ先に落伍して淘汰される状態である。家族に責任を持つことなど考えられず、自分一人の明日の状態すら不確定で、死は常に身近な問題である。
このような状態で恋愛など考えられず、たとえ好きな人がいても他の身分が安定した男と一緒になった方が彼女にとっても幸せだろうと考えてしまう。私はあぶれ男であり、ご先祖様に申し訳ないのだが、代々続いてきたわが家系も断絶の危機なのである。
ということで格差社会の厳しい現実にさらされた今読み返してみると、子どもの頃は単なる気の毒な脇役としか思えなかったうらなり君がまさに自分のようだと非常に共感・同情を持ってとらえられたのだった。
しかし恋愛問題に関しては、強者が勝ち弱者が負ける弱肉強食で自然淘汰は仕方がないのではないかと。
まあ赤シャツがマドンナを横取りするのは恋愛における弱肉強食としては仕方がないことだが、つくづく赤シャツや野だいこは悪いやつらだ。個人的問題としては大嫌いである。現実の社会ではこういう連中が幅を利かせているものであるが。
坊っちゃんや山嵐のような生き方は格好良くてこうありたいものですが、現実にはなかなかこうはいかないものです。
中学時代に『坊っちゃん』を読んで坊っちゃんや山嵐の活躍に快哉を送った皆さ〜〜ん!あなた方はどんな大人になりましたか〜〜!
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【結末の問題点】
ところでクライマックスの大活劇であるが、冷静に考えてみると、少々乱暴である。赤シャツ達が芸者と一緒にいたというのは状況証拠でしかない。警察官が乱闘場面を通りかかれば、坊っちゃんや山嵐の方が暴行の現行犯で逮捕されるのではないか?
それに芸者遊びだとか遊郭で行為に及んだとしても法的には問題ではなく、むしろその帰りに因縁をつけて暴行を加えたことこそ法的に問題ではないか。
うどん屋や団子屋に入ることを禁じた赤シャツが芸者と一夜を共にしたという道理的問題が天誅の理由だが、法的に問題があるのは坊っちゃん達である。
赤シャツ達が警察に被害届けを出せば坊っちゃん達も危なかったのだが、その後の体面を考えると赤シャツ達も訴えることはできなかったのだろう。
ということは、赤シャツも野だいこも一度の暴行を我慢すればその後は今まで通りの体面を保てるのであり、何らの社会的制裁もなく安泰な生活を送れるのである。
また、古賀先生(うらなり君)も故郷に帰ってくることはできず、当然マドンナも赤シャツのものとなる。
坊っちゃんも山嵐も勝ったようでいて、現実には退散の前に一矢報いただけにすぎない。
『坊っちゃん』は、決して、単純な勧善懲悪の物語などではなく、現に、善玉たる坊っちゃん達は、悪玉たる赤シャツ達に勝利してはいない。何故なら、うらなりの左遷を防いだ訳でもなければ、山嵐の濡れ衣を晴らしたり復職を勝ち取った訳でもなく、むしろ、邪魔者である坊っちゃん達が去った後の中学校における赤シャツ達の立場は安泰であろう。故に、『坊っちゃん』は、むしろ、敗北と挫折の物語と言える。だが、漱石の独特なリズムとテンポに満ちた文体の魅力によって、読者は深い感銘に満ちた爽やかな読後感を得る事が出来る。だからこそ、所詮、敗残者が一矢報いたに過ぎぬ赤シャツ達に対するリンチ事件が痛快無比な悪人退治に感ぜられるのである。
(wikipedia:坊つちやん より)
【あまりに無茶なうらなり先生転任辞令】
ちょっと疑問に思うんですが、古賀先生(うらなり君)の転任辞令はあまりにもひどすぎませんか?
赤シャツの陰謀のように書かれていますが、教頭一人の思惑でこんな無茶な辞令がまかり通るわけではない。狸(校長)は取り立てて赤シャツの仲間のようには書かれていず中立のように書かれてますが、普通の判断力があれば、到底承服できる人事ではないはず。
狸も赤シャツの味方をしてうらなり君追放に積極的に関与していると思わざるを得ない暴挙ではないでしょうか。
↑うらなり君(岡本信人)が送別会で『鉄道唱歌』を歌って絶望するシーンが強烈に記憶に残っている。
【赤シャツは何歳か】
これも疑問に思うんですが、赤シャツは何歳くらいなんでしょうか。
教頭をして別格扱いで、すごいことに一軒家を借りている。家賃は9円50銭である。
坊っちゃんよりかなり年上というイメージがあるんですが、まだ独身のようです。そして弟はまだ中学生で、坊っちゃんの生徒である。赤シャツ兄弟は年の離れた兄弟なんだろうか。
【イナゴ事件の真相】
もう一つすっきりしないんですが、坊っちゃんが宿直の時に寝床にイナゴが入っていたというのは、学生達がやったことなんでしょうか。
「イナゴはぬくい所が好きじゃけれ、おおかた一人でおはいりたのじゃあろ」
と学生が言っている。
坊っちゃんの早とちりが真相だったとしたら、ちょっとひどい。
ジャーナリズム精神を持つ者としては、真相が気になる。
……ということで、投稿文。
まだ恋愛を体験する前に読んだ頃は、うらなり君が気の毒、赤シャツはけしからん、というのが感想で、悪玉が善玉に退治されるクライマックスの天誅シーンを単純に楽しんでいた。
そして坊っちゃんと山嵐をヒーローのように感じ、自分も大人になったらこんなヒーローになって赤シャツや野だいこのような悪人を懲らしめてやろう、と憧れ、その一方でうらなり君は単なる気の毒な脇役としか思わなかった。
その後数十年がたち、大人になってみると、どう考えても今の私はうらなり君なのだった。
しかし恋愛・結婚に関して遠山マドンナ嬢の選択(心変わり)を批判するつもりはない。
負け組に転落して自分一人の明日も不安定となった今、家族を養う能力や経済力を持つ強者が恋愛戦争で勝つ弱肉強食・自然淘汰は仕方がないのではないかとあきらめと絶望の心境である。
- 作者: 羽里昌
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