一年間に渡って楽しく観続けてきた『新選組!』も、残すところ今回を含めあと2回。
新選組については私は今回がほぼ初めての初心者ですが、今回の三谷版新選組は、私にとって新選組の第一イメージを形作るにふさわしい名作だと思います。
史実の近藤勇がどう考えていたのか。
三谷幸喜がどのような近藤勇を描きたいのか。
そしてそれらを踏まえて、どのように考えることができるのか。
今回の大河ドラマでは、このような点に注目して色々と考えることができます。
この『新選組!』は、史実とは別に三谷幸喜が脚色を加えたものだ、ということを頭に入れた上で、またいつものように思うところをつらつらと述べてみたいと思います。
◇ ◆ ◇
オープニング前、近藤勇(香取慎吾)と土方歳三(山本耕史)は、江戸に帰ってきて悠々と釣りなんか楽しんじゃっております。
甲州での戦のその後はどうなったのだろうか。あれから菜っ葉隊を呼びに行った土方と捨助は帰ってきたのだろうか。
永倉新八(山口智充)と別れてまでも、菜っ葉隊がくるまでここを死守しなければならない、と近藤局長は言っていたのに。
(後で、どうせ江戸に帰るんなら近藤さん達と一緒でも良かったのに、という原田左之助のセリフが出てきます。)
「京にいたのが夢のようだな。
昔、多摩で遊んでいた頃のことを思い出す」
「覚えてねえな。
人は変わらないと駄目なんだ。
俺には振り返っている暇なんかねえ。
勝ちゃん、ここで新しい新選組を作ろう」
前回、多摩時代の許婚に、多摩の人達は陰口を言っている、と言われたからか、土方は多摩のことを思い出したくないようである。
残念なのは、この期に及んでまた同じことを繰り返そうとしていることである。
“変わらないと駄目”なのは、土方を始めとする新選組の方ではないだろうか。
総大将の徳川慶喜(今井朋彦)が白旗を上げ、錦の御旗の威力により鳥羽伏見の戦いに続いて勝沼での戦いにも圧倒的に負けてしまった以上、もはや徳川側には勝ち目はない。大義のない戦いを始めようとしているのは、今や徳川側となってしまった。(⇒⇒)
そこに現れた近藤周平(浅利陽介)。五郎兵衛新田の名の由来を発見し、嬉しそうに報告する。
私も運動より学問の方が好きな性格なので、こういった周平的生き方に共感する。
そして最近のもう一人の主役とも言える勝海舟(野田秀樹)が薩摩屋敷に乗り込み、西郷隆盛(宇梶剛士)と直談判して、江戸城無血開城を条件に江戸総攻撃を止めさせる。
薩長同盟の立役者であり、薩長と同盟を結んでいた坂本龍馬(江口洋介)ですら説得できなかったことを、幕府方の勝海舟はいとも簡単にやってのけた。
時代の大勢はほとんど決まっていた、という外部状況もあるのだが、それにしても勝海舟は何気にものすごい。
変に気負っていなくて名より実を取るという合理的な考えをしているのだろう。
もし勝海舟が松平容保のような性格だったら、
「家康様以来の江戸城が薩長の手に渡ることは許せない」
と考えていたかもしれない。
譜代大名でなくただの家臣だった、という地位の身軽さから、考えの自由度も高かったのだろうか。
◇ ◆ ◇
徳川慶喜によって名を下された近藤と土方。オープニングの配役紹介では、
近藤勇(大久保大和)
土方歳三(内藤隼人)
となっていた。
◇ ◆ ◇
勝海舟に江戸立ち退きを命じられた新選組、千葉流山で兵を養うが、すぐに官軍の知るところとなる。
大軍監・香川敬三(松本きょうじ)と土佐の上田楠次(山崎一)が敵役となるのか。
面倒くさがりの香川を補佐する緻密な上田。上田の主張により、香川は有馬藤太(古田新太)を偵察に出す。
この有馬、先週予告編でいきなり出てきた時に、あまりのものすごい形相に心臓が縮まるような気がしてギョッとさせられたのだが、今回はそんなに驚かなかった。心の準備があれば慣れるものだ。
新選組の流山本陣を視察する有馬。官軍の幹部は何であんなかつらをつけているんだろう。
そこへ、呼ばれなくても突然現れた捨助。官軍の視察でピリピリした空気を読めず、おバカな発言を連発。
しかし土方に鉄砲で狙われ、ようやく空気を読んで適切な発言で危機を切り抜ける。
さすがは悪運の強い奴よ……と思ったら、何と始めから知ってたんだと。
「ハラハラした?ね、ハラハラした?」
悪趣味やなあ。現実の世界では、いくら何でもこんなことしてまで受けを狙う奴などいない。
いかにも演劇的な演出だが、大河ドラマにこんなシーンがあってもいいじゃないか。
◇ ◆ ◇
捨助の機転(?)で危機を切り抜けたが、ついに有馬、「誠」の旗を見つける。
刀に手をかける土方を止める近藤。
「こん時に兵を集めれば痛くもない腹をさぐられる。
即刻解散をおすすめします」
と帰ろうとする有馬。一体なぜか?
「ときに大久保どの、近藤勇をご存知な。近藤のこつをどげん思うな。
京ではさんざん乱暴狼藉を働いたち、聞いちゅう」
「近藤は天下の大罪人でございます。されど罪人にも3分の理があると申します」
「近藤の言い分とは」
「薩長のことを許すわけにはいかなかったのでしょう。
このまま天下を我が物にするために帝を利用して戦を起こしたあの者達のやり方が。
薩摩は特に徳川に力を貸すように見せかけ、最後に裏切った。それは武士のやることではない」
「おいもその薩摩の人間でごわす」
「今のは私の意見ではありません。あくまで近藤勇の気持ちを」
「なるほど」
「薩摩のやり方を有馬様はいかが思われますか」
「おいは藩の命に従うのみでごわす」
「義を重んじる者にとって薩長を認めるわけにはいかなかった。
戦では負けましたが勝ち負けは時の運。悔いはない。
今でもはっきりと言います。正義は我らにある。これから何度生まれ変わっても戦い続けます。
そう近藤は思っておるのではないでしょうか」
「もし近藤がほんのこつそげな男じゃれば敵ながらあっぱれち言わななりもはんな。
一度膝を突き合わせて酒でも飲みたか」
と帰り支度をする有馬。
かつて小野川親方(瑳川哲朗)や伊東甲子太郎(谷原章介)の時のように、近藤局長の体当たりの談判により、今回も有馬と分かり合えることができたようだ。
しかし、ここで疑問点が2つある。
まず、有馬が新選組の旗を見ても見なかったふりをしたのはなぜか?
次に、有馬はなぜ近藤勇のことを聞いたのか。聞いてどうしようとしたのか?
◇ ◆ ◇
最初の疑問について。
勝者側にいるとはいえ、有馬は敵の城の中にいる。下手に騒げば殺されたり人質に取られたりしかねない。
新選組という恐れられた集団の中に入るのだから、有馬としても、命がけの調査である。
だから、ここはまず、見なかったふりをして帰るつもりだったのではなかろうか。
官軍の将としては、ここまでで十分役目を果たしたことになる。
しかし、彼個人の好奇心というか何と言うか、この人ありと言われた近藤勇の意見を直接聞いてみたくなったのかもしれない。
だからこそ余計にもうっかりあのような質問をし、それを聞くことで近藤に共感する羽目になったのかもしれない。
元来有馬は、薩長軍の中でも異質な存在だったのかもしれない。初登場の際にもそのような描かれ方をしていたし。
そしてどこか近藤勇に通じるものがあったのかも知れない。
◇ ◆ ◇
社会に出て仕事をする上で、会社なり役所なり、所属組織の力で働いているということがある。
仕事の上で相手と面談する時、相手から礼を尽くされているのは自分の実力だからだ、と思ってしまいがちだが、実は相手は自分の後にある会社なり役所なりに対して礼を尽くしているのである。
肩書きを外した時、果たして同じように対応してもらえるか。肩書きを外した自分自身の実力で勝負できる実力があるかないか。
そのように考えると、有馬は、勝者・官軍の肩書きで敗軍の陣地に乗り込んできた。敗軍は官軍が怖いので一応おとなしく振る舞っている。
しかし有馬が肩書きに頼るだけの無能な将だとしたら、状況次第では命の危険もありうる。
新選組の旗を見つけても見ぬふりをして引き下がり、また、あえて近藤勇の心境を聞いてみた有馬藤太は、官軍の将としても立派であり、また、官軍の将という肩書きを外した個人としても、腹の太い実力者だということが分かる。
◇ ◆ ◇
しかし、有馬藤太(古田新太)を説得した近藤勇(香取慎吾)のセリフについて。
薩長が憎いというだけで、多くの命や物を犠牲にして戦い続けるのはいかがなものかと。
徳川家に勝ち目がない今となっては、もはや義のない戦は、反薩長軍の方ではないのかと。
「正義は我らにあり」とは言っても、幕臣にとってはそうかもしれないが、一般の人にとってはそうと言い切れるか。
「何度生まれ変わっても戦い続けます」と、戦うことが目的になっては困る。
第47回「再会」の時に書いたが、今の時代に生きている私なら、「生き延び、あきらめず、オンリーワンを目指すこと」
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20041201
すなわち、武力ではなく言論・文化の面で生き延びて活動する、ということが言える。
実際には武力ではなく言論の時代が始まるのは、西郷隆盛が西南戦争で負けるのを見た板垣退助らが自由民権運動を唱えてからのこと。
◇ ◆ ◇
また長くなったので、明日に続きます。
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NHK大河ドラマで活躍中の永倉新八について、脚本(三谷幸喜)、演技(山口智充)について、どう思いますか。
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(途中経過及び結果は http://clickenquete.com/a/r.php?Q0002191C7256 )
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『新選組!』をもっと楽しく観よう会 目次
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20041115