OLDIES 三丁目のブログ

森羅万象・魑魅魍魎を楽しみ・考える不定期連載ウェブログです。本日ものんびり開店休業中。

海野十三『三十年後の世界』

(以前、速読訓練のメルマガで教材に取り上げられた時に書いた記事です。一部修正しました。 2023年6月29日)


 昭和五十二年の夏、雪の山中で発見されたタイムカプセル。
 中には、昭和二十二年八月十三日に冷凍された小杉正吉少年が入っていた!
 20年後に開かれるはずだったこのカプセルだが、なぜか忘れられ、30年後の今日開かれることになったのである。
 
 30年後の世界に甦った正吉少年は、東京を案内され、技術の進歩に驚き、母親や弟と再会。
 正吉少年をタイムカプセルに閉じ込めたモウリ博士は、月世界探検に行ったまま行方不明になっていた。
 正吉少年は月・火星探検隊に志願し、認められる。正吉少年の活躍が始まる!
 
『海底都市』でも、戦後間もなくから20年後の世界が描かれ、主人公の少年は20年後の進んだ世界を案内されます。
 当時は20年や30年後の世界はかなり進んだ世界になっていると思われていたのでしょう。
 30年どころか50年以上過ぎた今、古き良き時代の回顧趣味が支持を得たりしています。

   ■[日々の哲学]懐かしの内風呂バスオール
     http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20060209
 
 30年後の進歩した世界を夢見たあの頃。
 昭和30年代を回顧する現代。
 
 未来への夢を見ることが難しくなった現実が歴然としてあります。
 私達が夢見ていた未来は、こんな未来だったのでしょうか。
 
 それにしても、20年後に開かれるはずだったタイムカプセルが忘れられているとは、何といううっかりであろうか。
 正吉少年には母親や弟がいて、実際に再会しているのだが、この母親や弟もタイムカプセルを開けることを10年間忘れていたのだろうか。
 
 人間を生きたまま冷凍して後に甦らせるというのは、当時としては最先端科学だったはず。
 しかるべき大きな組織が関与してニュースにもなっていいはずなのに、なぜか10年間忘れられ、その10年後も偶然に見つかったという有様。
 正吉少年はまかり間違えば今後ずっと忘れられたまま冷凍されていた可能性もある。
 
 正吉少年はその後、宇宙探検に出発して活躍します。
 こういったストーリー展開、学習雑誌に掲載されるジュブナイルSFの典型的パターンです。
 こんなジュブナイルSF、今でも書かれているんだろうか。
 今はミステリーものが流行ってるんでしょうか。
 殺人事件はもういいよ。やはり夢と希望を与えるSFがいい……と、SF派の私である。
 
 モウリ博士は月世界で発見され、探検隊一行に加わります。
 モウリ博士は何十年も過酷な月世界、凶暴な月世界人の地底住居に紛れて生き延びているわけですが、一体どうやって生き延びてきたのだろうか。
 モウリ博士の月世界での生活については全く触れられていませんが、そっちの方が興味深い。
 
 火星でも火星人と遭遇します。タコ型ではなく、魚型です。やがて地上生活に適応していくんだろうと書かれています。
 ここら辺の火星人についての描写も興味深い。
 そしてどんでん返しのような結末で唐突に終わります。

「われわれ地球人類は、このさい急いで大宇宙探検計画をたて、一日も早くそして一人でも多くその探検に出発するのでなければ、やがて他の遊星生物のためにお先まわりをされてしまって、地球人類の発展はきゅうくつになるおそれがあると信じます。
 世界の人々は今すぐにも手をとりあって、この重大なる仕事にかかりたいものです」

“遊星”という言葉が時代を感じさせます。
 今は“惑星”というんでしょうが、しかし“遊星”という言葉も捨てがたい。
 迷うより遊ぶの方が文字としてはいいイメージがある。
 時代は遊星宣言。

 さすがにマルモ隊長は、未来をよく見ている。地球人類の繁栄は、たしかにマルモ隊長の指し示す方向にある。それを早くさとって実行にうつすのが、世界人だ。少年少女たちは、やがてかならずこの重大な仕事につくのだから、今からいっそう勉強しておかなくてはならない。

 そういった夢を持てた時代はいいと、つくづく思います。
 今はこんな夢を持てるんでしょうか。
 しかし、未来に夢を持てる時代にしていかなくてはいけません。

海野十三『海底都市』
  https://diletanto.hateblo.jp/entry/20050511/p1

三四郎』な人生論
月面基地に放置された五万年前の人骨の謎!【三十年後の世界】海野十三
  https://sanshirou.seesaa.net/article/499873267.html





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