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┃ ∞ 「天は人の上に人をつくらず」 そのココロは? ┃
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上司が図書館から本を借りてきて感銘を受けて、子ども達にも読ませてやると言う。
その本を見せてもらってパラパラめくっていると、福沢諭吉のことが書かれていた。
「ベストセラーでなければ、
歴史に残れない」
というタイトルの3ページのその項目には、以下のようなことが書かれている。
まず最初に、筆者が予備校時代に好きだったという日本史の先生のある日のセリフのことが書かれている。
「天は人の上に人を作らず」と、ここまでは声が大きかった。
「要するに、勉強しなきゃ損するぞと、こういうことですね」
筆者はこの先生の歴史観が
「このとき一瞬でわかった気がした」
と書いている。
???
しかし、私には何のことやらさっぱり分からなかったのである。
早口で小さく話されたという冗談を耳で聞いて一瞬で理解した筆者と、
文字で書かれた文章を読んでも全然理解できない自分。
福沢諭吉の有名な「天は人の上に人をつくらず」という言葉が、何で
「要するに、勉強しなきゃ損するぞ」という結論に結び付くのか、その過程が全く理解できなかったのである。
この後の部分には解説のようなことがつらつらと書かれているが、それを読んでもまるっきり理解できない。
福沢諭吉の「学問のすすめ」のエッセンスはそういうことだ。
「それを言える人は、僕がいろいろ聞いた中ではあまりいない。『学問のすすめ』は、人間が平等なんだということを言いたいんじゃないんです。マジで勉強しなかったら、とんでもない目にあう。貧しくなるだけじゃなくて、いやしくなる。世の中にバカにされる、嫉妬深くなる、とあらゆることを言っているわけです。あれは面白い、すごい本だけれども、福沢諭吉は、あの時代の中で自分の一番の売り出し方を考えていた。自分は平等主義者だと言いながら、人間は徹底的に努力したヤツが勝つんだ、というのはすごい言い方ですね」
だから、あの時代にベストセラーになった。
……ということで、ベストセラーを書いていない作家や学者は駄目だ、という話になっていく。
徳富蘇峰は今は誰にも読まれないけれども何百万部という本を書いた国民的作家、ポピュラーな作家であり、夏目漱石や森鴎外という人たちとも全然ランクが違う。だから、何を言われても自信があった。
さらに、芥川龍之介も部数自体は少ない。
「ただ、芥川はものすごく勉強家だった。あの短い期間に日本で一番本を読んだ人だという伝説が残っている。僕は芥川の本を読んだけれども、勉強したというふうには全然思えないのね。彼は何なのか。僕たちもたくさん勉強したけれども何も身についていないというのと同じで、いろいろ知識はありますよということです」
……という文章で終わり、
「21世紀勉強法その37
文学史ではなく、
ベストセラー史として捕まえよう。」
というのが結論である。
私、この項を読んでも全く付いて行けず、理解できませんでした。
一体何を言いたいのか、何のことを話しているのか。
「天は人の上に人を作らず」から「要するに、勉強しなきゃ損するぞ」という結論が出てくるのも不思議だったし、そこからさらに「ベストセラーでなければならない」という結論が出てくるアクロバチックな展開。
徳富蘇峰と夏目漱石や芥川龍之介の例が上げられているが、普通、これらの例から導き出す結論としては
「たとえその時代に売れなくても後の世に評価されることもある」
が自然ではないか。
現在の世で徳富蘇峰の文章を読んだことある人はほとんどないが、夏目漱石や芥川龍之介は大抵の人が知っているし、何らかの作品を読んだことがあるだろう。
夏目漱石や芥川龍之介は現在でも押しも押されぬ国民的作家である。
一時のベストセラーよりロングセラーではないのか。
……という風に、わずか3ページながら展開自体もあっちこっち飛んでギクシャクとして読みにくいし、意味も非常に取りにくいのである。
ではこの本は何だというと、タイトルは『一流の勉強術』といい、著者名として中谷彰宏と鷲田小彌太の記載がある。
- 作者: 中谷彰宏,鷲田小彌太
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2001/08
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (8件) を見る
著者名に二人の記述があるので、では対談か、それとも分担して執筆しているのかと思えば、そうではないようである。まえがきもあとがきも中谷氏が書いているが、鷲田氏がこの本に対してどのような働きをしたのか何の説明もない。
本を読んでいくと、どうやら中谷氏と鷲田氏が対談して、その後中谷氏が鷲田氏が言ったことを引用しながら持論を展開したのではないか、と思われる。
この対談でもなく分担執筆でもないスタイルのため、それがまたこの本を読みにくく、意味をとりにくくしている。一体どこまでが鷲田氏の意見で、どこからが中谷氏の意見なのか境界が分かりにくくなっている。
一応、鷲田氏の意見は「 」でくくり、中谷氏の意見は地の文ではないかと思うのだが、それが徹底していない。
私が上で例に挙げた項の書き出しは、こうなっている。
私は駿台予備校に行っている時、「大学の日本史」を書いている安藤和男先生が大好きだった。
と、「 」なしの地の文で始まっている。とすれば、これは中谷氏が経験を語っているのかとも思う。ところが、上に引用した「それを言える人は……」以下は、「 」でくくられていて、それなら鷲田氏の経験か、とも思えてくる。一体どちらがどちらの意見を言っているのか非常に分かりにくく、そこがこの本の読みにくさでもある。いつも明快で読みやすい本を書いている中谷氏とは思えない。
さらに、芥川龍之介に対しては「ものすごく勉強家だった」と書く一方で、否定的な評価を下しているようである。
この本、勉強について書いた本だったんじゃないですか?
勉強することを勧める本なのに、「ものすごく勉強家だった」作家を否定するのは矛盾するのでは?
「僕たちもたくさん勉強したけれども何も身についていないというのと同じで、いろいろ知識はありますよということです」
という文で終わっているが、これで一体何を言いたいのか。勉強しても意味がないといっているのか、僕達の提唱する“21世紀的勉強法”ならいいと言いたいのか。
私は中谷さんの本は何冊か読んだことあります。皆、論理が明快で読みやすい本だった。
ところが本書はそれとは正反対で、全く読みにくくて意味が取りにくい。
これは、鷲田氏の意見と中谷氏の意見の境界が分かりにくいという記述法もさることながら、いつもは自分から出てくる自分の言葉で書いている中谷氏が、無理に鷲田氏の言葉を使って書こうとしているが咀嚼し切れていない、ということもあるであろう。
私が上で紹介したこの3ページの項目は、こういった本書の特色を如実に表している項目である。
さて、一番最初に戻って
「天は人の上に人をつくらず」という言葉が、何で
「要するに、勉強しなきゃ損するぞ」という結論に結び付くのか。
その後も考え続けました。そして、次の日の朝目が覚めてよっこらしょと起き上がった時、フッと理解できたのです。すなわち
「天は人を平等に作っている。だから、人よりいい生活をしようと思ったなら、人より○○しなければならない」
ということではないか、と。
この本は勉強法について書かれた本であるし、両氏とも勉強法について語った文脈で使っているのだから、(それに何より、福沢諭吉が『学問のススメ』で書いた言葉だから)ここでは○○には「勉強」という文字が入るであろう。
別に○○には「勉強」に限らず、例えば「冒険」「挑戦」「運動」「芸術」など、何でも入りそうだ。
平たく言えば、
「人を出し抜くためには人より先んじること」
である。
なるほど、福沢諭吉の有名な
「天は人の上に人をつくらず」
という言葉から、このような結論を導くことができるのか。
お人好しの私など、思いもよらない視点である。
だからいきなり
「要するに、勉強しなきゃ損するぞ」
という結論を言われても、あまりの飛躍についていけず、一晩考えることになってしまった。
成功するにはチャンスを掴むことが必要で、いつ来るか分からないチャンスが巡ってきた時にすかさず捕まえる態勢が整っている人と、整っていずにチャンスを逃がす人間がいる。
「要するに、勉強しなきゃ損するぞ」
という結論を聞いて一瞬で理解できる人はチャンスを生かすのがうまい人であって、一晩考えてやっと理解できる私のような人間は、チャンスを捕まえるのが難しいタイプなのではないだろうか。
「天は人の上に人を作らず」
広く知られているこの言葉。しかし、この言葉がどんな意味を持つか。
「ええ言葉やなあ」
と関心して思考停止してしまってはダメで、一歩踏み込んで
「そのココロは?」
と問うてみると、色々なことが分かってくる。
これは、他のことにも言えることではないだろうか。
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アマゾンカスタマーレビューを読むと、どうやら例の言葉の解釈は、中谷氏や鷲田氏が言ってることで正しいという感じがします。あえて説明は不要、という基礎的事項ということでしょうか。原著を読んでいればあんなに悩むことはなかった。これは遅まきながら原著を読む必要があると思いました。
↑この本について書きました。
- 作者: 中谷彰宏,鷲田小彌太
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2001/08
- メディア: 単行本
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■[学問]「天は人の上に人をつくらず」 そのココロは?
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20060315
■[学問]「勉強」と「学問」の違い
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http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1311083123
天 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9
慶應義塾豆百科 22 考証・天は人の上に人を造らず……
http://www.keio.ac.jp/mamehyakka/22.htm
【編集後記】
「天は人の上に人を作らず」の意味するところ、今回初めて知りました。
こんな意味だったのか。知った気になっていてはいけない。
ところで、皆様は『学問のすすめ』を読んだことありますか?
あなたは
まぐまぐより 118人(−12)
メルマガ天国より 44人
めろんぱんより 30人(+2)
まぐびーより 6人(+2)
マガジンライフより 365人(+29)
の学問について考えるヒトのうちの一人です。
それでは、今後もよろしくお願いします。
【学問】カテゴリでは、学問に関する思索を書き綴っています。
過去、こんなテーマについて書いてきました。
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