OLDIES 三丁目のブログ

森羅万象・魑魅魍魎を楽しみ・考える不定期連載ウェブログです。本日ものんびり開店休業中。

《メルマガ》露悪趣味の小説に疲れた時の一遍の清涼剤 『愛の一家』

◆◇【少年少女世界の名作文学ブログ・完全版】◇◆
第10回配本 愛の一家 優等生版 家庭・学園物語
    露悪趣味の現代の物語に疲れた時の一遍の清涼剤
(メルマガ 少年少女世界の名作文学ブログ・速読み版 の完全版です。)
  http://nazede.gozaru.jp/mmm.html
 
 毎月1回を目標としているこのシリーズ、今回は危なかったのですが、締め切り効果で発行することができました。
 なぜ遅くなったかというと、現在サンテレビで『水滸伝』を再放送していて、そのレポート作成に熱中しているからです。これについては、以下のページからご覧下さい。
 
 水滸伝倶楽部 http://nazede.gozaru.jp/suikoden.html
 
 そしてこのメルマガについては、メルマガ配信スタンドめろんぱんさんのオススメに選ばれました。
 これについては以下をご覧下さい。
 
■[名作文学][情報発信]《メルマガ》めろんぱんのオススメに選ばれました
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20061115
 
 オススメとして恥ずかしくないように、今後も精進していきます。
 
 さて、名作文学情報です。
 映画『トリスタンとイゾルデ』が公開されています。
  http://movies.foxjapan.com/tristanandisolde/
 トリスタンとイゾルデについては以前、『中世騎士物語』で少し触れたことがあります。
   http://nazede.gozaru.jp/mmm012.html
 ヨーロッパ中世の英雄伝説に材を取ったこの映画、何とアメリカで製作されているようです。
 日本にいるとアメリカの映画ばかり話題になって、ヨーロッパの映画はあまり目立たないような気がします。
 
 名作文学の映画化というと、これも以前取り上げた『飛ぶ教室』が最近新訳ということで新刊が出ました。
 

飛ぶ教室 (光文社古典新訳文庫)

飛ぶ教室 (光文社古典新訳文庫)

  
飛ぶ教室 [DVD]

飛ぶ教室 [DVD]

 飛ぶ教室 http://nazede.gozaru.jp/mmm004.html
  
光文社古典新訳文庫」の創刊ラインナップのうちの1冊に選ばれたのだから、すごいものです。
 あまり古典名作を出しているという印象がなかった光文社が古典の新訳を出すというのも驚きです。
 以前、角川文庫が古典名作を独立させて「角川文庫クラシックス」というシリーズを出していました。カバーがシックな感じで洗練されていて、なかなか良かったと思います。
 こういった試みが評価されるようになってほしいものです。
 
 それから、フリッツ・ラング監督の『メトロポリス』のDVDが発売されたようです。
 
メトロポリス [DVD]

メトロポリス [DVD]

 この映画の原作はテア・フォン ハルボウの『メトロポリス』。
 
メトロポリス (創元SF文庫)

メトロポリス (創元SF文庫)

 この作品は、このメルマガのテキストにしている小学館の名作文学全集にも収録されています。
 DVD発売記念にこのメルマガのテーマにしても良かったのですが、DVD発売を知ったのが遅く、間に合いませんでした。
 ということで今回は、クリスマスにちなんで『愛の一家』を読んでみました。
 
 私が子どもの頃、『まんが世界昔ばなし』という番組がありました。最初は短い童話を15分完結で放送していたのですが、後期には長編名作文学を連続シリーズ化して放映するようになり、『ああ無常』や『若草物語』などを取り上げていました。『愛の一家』もそのなかの一本として放送されました。
 また、原作も一度だけ読んだことあります。内容は忘れてしまったのですが、クリスマスと雪合戦と、アコーディオンを弾くフリーダという少年のことだけを断片的に覚えていました。
 
 さて、今回読んだテキストについて。
 
∽∽∽∽☆∽∽∽∽★ ◇◇◇  書誌的事項  ◇◇◇ ★∽∽∽∽☆∽∽∽∽8
1◆少年少女世界の名作文学28(名作文学50巻版)ドイツ編2(1968年)
  ◇愛の一家  ザッパー原作 植田敏郎(訳) 宮脇紀雄(文) 古賀亜十夫(絵)
2◆カラー名作 少年少女世界の文学18(文学30巻版)ドイツ編2(1969年)
  ◇愛の一家  ザッパー原作 宮脇紀雄(文) 古賀亜十夫(絵)
3◆少年少女世界の名作32(名作55巻版)ドイツ編5(1973年)
  ◇愛の一家  ザッパー原作 宮脇紀雄(文) 滝原章助(絵)
・'゜☆。*:。.:*:・'゜☆。*:。.:*:*:。.:*:・'゜☆。*:。.:*:・'゜☆。*:。.:*:
 
 1の名作文学50巻版と、2の文学30巻版は、文章も挿絵も同じものです。
 30巻版はカラー版なので、新たに彩色されています。
 また、3の名作55巻版は、挿絵が変わり、文章も所々削除されています。長い作品がカットされて短くなっているわけです。
 重厚長大の完訳主義が時代の流れでダイジェスト主義に方針転換したということなのでしょうか。
 
  
 物語は、ペフリングさんという音楽教師一家の物語です。家族構成は、ペフリング夫妻に7人の子ども、すなわち上からカール、ウィルヘルム、オットー、マリエ、アンネ、フリーダー、エルゼ、それにお手伝いのバルブルクです。
 他の兄弟と違ったところがある、と書かれているフリーダーだけは覚えていました。お手伝いさんの名前はハンブルクだと思っていて、ドイツの地名のハンブルクの記述を見るたびに、この耳の遠いお手伝いさんのことを思い出していたのですが、今見ると、バルブルクと記述されています。
 上の兄三人は典型的なドイツ的名前ですね。マリエとアンネは双子で、二人合わせてマリアンネと言われています。
 
 さて、雪合戦のエピソードですが、クリスマスを前にしたある日、ウィルヘルムと友人達が街で雪合戦をして遊んでいます。
 その中の玉の一つが偶然、歩いていた人に当たり、怒る通行人にさらに悪い奴が雪玉を投げつけるという事件が起こりました。ウィルヘルムは謝り、雪を払う手伝いをします。
 その後、この通行人の連絡で警官が調査に来て一人の子どもを捕まえ、名前を聞き、その子はウィルヘルムの名前をかたって罪をなすりつけようとします。
 その後、ペフリング宅に、ウィルヘルムに出頭するよう命令が来て一騒動起こるのですが、もちろん最後には間違いが分かって一件落着します。
 それにしても名前を聞いてから離さずに、その場で取り調べればこんな間違いなど起こらなかったのに。
 
 ギリギリの生活をしているペフリング家では、クリスマスのもみの木を買う余裕がありません。フリーダーが市場でクリスマスツリーの露天販売を見ていると、もみの木配達の子どもに間違えられて、遠くの家までもみの木を運ぶ羽目になります。小さいフリーダーが大きなもみの木を担いでえっちらおっちら頑張りますが道が分からなくなり、とうとう家に帰って助けを求めます。これも兄達の協力で無事に配達でき、もみの木も新しく買ったので不用になったから、ということでお駄賃にもらうことになります。
 
 ペフリングさんが音楽の家庭教師をしているロシア人が住んでいるホテルには、オットーの同級生である跡継ぎ息子・ルードルフがいます。勉強もせずに偉そうに命令ばかりして生意気な性格であり、ペフリングさんはルードルフの父親であるホテルの主人に助言します。ホテルの主人は気を悪くしたようで、ペフリングさんは後悔します。
 しかしその後、ルードルフは普通の少年らしい生活をするために父親の妹の家に預けられることになり、ルードルフは改心し、父親もペフリングさんに感謝するわけです。
  
 ……とまあ、このようなエピソードの積み重ねで、基本的に良い人達ばかりが登場します。ちょっとした波乱はありますが、みな誤解が大きくならないうちに謝って一件落着します。
 だからまあ、読んでいて感動でき、癒やされ、安心できる物語です。
 しかし、現代の風潮から見ると、非常に優等生的とも思える物語です。
 
 例えば、バイオリンに熱心なあまり決められた制限時間を守らないフリーダーをペフリング先生は怒って、バイオリンを取り上げようとします。その時フリーダーは一瞬、バイオリンを抱えて抵抗するそぶりをします。ペフリング先生は、兄達でもしたことのない抵抗を受けて驚きますが、その抵抗も一瞬で、フリーダーはおとなしくバイオリンを渡します。
 このように、子どもは父親の言うことを聞いて当然、という倫理観が作品中貫かれています。
 今の時代の子ども達は、父親のTVゲーム禁止令をおとなしく聞くでしょうか?
 
 先ほど紹介した雪合戦のエピソードで、通行人にわざと雪玉を投げつけた少年は、退学処分となりました。
 その他にも色々と悪いことをしていたようで、学校側の観念袋の糸が切れたということです。
 悪い者は遠慮なく罰せられる、という倫理観。
 なるほど、このような世界観を“美しい”と理想化している人達がいるかもしれません。
 
 現在、民放のゴールデンタイムで見られるようなドラマでは、子どもが親や先生などに抵抗することもよくある光景であるし、何せ14才で母親になるような時代です。
 ちょっとくらい悪ぶっている高校生が登場するドラマやマンガも当たり前のようにあります。
“純文学”と言われるジャンルでも、聖人君子のような人ばかり出てくるのではなく、これでもかと露悪趣味を詰め込んだような作品は多いです。
 いつぞや、若い女性が芥川賞を受賞したということが話題になりましたが、舌にピアスとかいう話題が出れば、謹厳実直を絵に描いたようなペフリング先生などは卒倒するかもしれません。ペフリング一家が現代の日本にタイムスリップすれば、どう思い・どんな反応をするのでしょうか。
 とにかくまあ、このような風俗が当然のように一家のお茶の間の夕食時間に入り込んでくる時代になったわけです。
 作者のアグネス・ザッパーは政治家の娘で、夫は町長だそうです。お堅い家庭環境にいたわけで、なるほど典型的なPTA推薦的作品となっているのも納得できます。
 
……とまあ、この作品を茶化すようなことを書いてきました。
 今の子ども達が置かれている生活環境・学校環境・読書環境・TV環境から見ると、余りにも毒がない、無菌的とも思える作品です。
 それは時代環境の変化のためであり、仕方ないことかもしれません。しかし、時代を超えて訴えかけてくるものもあります。
 『クレヨンしんちゃん』というお下劣なマンガが世代を超えた人気がある一方で、『サザエさん』のような作品もまた、世代を超えた人気があることも事実であります。
 現実の世界には色々あり、物語も色々あるのです。
 この混乱・爛熟する現代風俗に文学や児童文学はどう答えるか。
 結論は出ませんが、ただ一言、「心の中を強制することは反対」ということだけは断っておきます。
 
 何だか脱線しましたが、最後にまたこの物語に帰ってきて、ペフリングさんは子ども達の将来をどう考えているのでしょうか。
 ペフリングさんは音楽の教師をしていて、帰宅後は音楽の家庭教師もしており、物語の最後には新設の音楽学校の教師に選ばれるほど、音楽の才能はあるようです。
 しかし、息子や娘達に音楽の仕事を継がそうとは思っていないようです。
 7人いる子ども達の誰に対しても音楽を教えようとはせず、むしろ学科に励むよううるさく言っています。
 
 ただ一人、他の子ども達とは違っていると書かれているフリーダーだけは音楽の才能があるようで、父親に教わらなくてもアコーディオンやバイオリンを見事に弾きこなします。
 私はフリーダーとアコーディオンを一セットにして覚えていたのですが、アコーディオンを弾いていたのは物語の最初の部分だけで、やがて古いアコーディオンは壊れ、弾けなくなってしまいます。
 その後、クリスマスのプレゼントにバイオリンをもらい、独習で上達します。
 しかしペフリング先生はこのフリーダーの音楽的才能も情熱も嬉しくないようで、バイオリンを弾く時間を1日2時間までと厳しく制限し、それを破ると怒ってバイオリンを取り上げ、1年間弾いてはいけない、と命じます。
 
 音楽家になるためには子どもの時代から英才教育が必要だと聞いた事があります。
 大切な少年時代に1年間もバイオリンを取り上げられれば、折角のフリーダーの音楽的才能もさびてしまいます。
 もしフリーダーを音楽の仕事に就かせたいと思うならば、1日2時間とはいわず、できる限りの時間を音楽に費やすべきでしょう。
 それ以上にフリーダー以外の子ども達は、もはや音楽家になることはできないでしょう。
 ということはやはり、ペフリング先生は子ども達を音楽の道に進ませたくないのかもしれません。
 
 ペフリング家ではいつもギリギリの生活をしています。先生の学校からの給金では足らずに、帰宅後の時間を利用して音楽の家庭教師をしないとやっていけません。
 それでもいつも物が不足していて、新学期には子ども達の学校のテキストや教材の購入にも困り、話し合いで優先順位を決めて選択しないといけないほどです。
(前にも書きましたが、私は子どもの頃、本の中でこういった描写を読む時、こんなのは昔の話だ、21世紀の未来には貧困なんてなくなって、皆が平和に幸せに暮らせる時代になっているに違いない、と思っていました。
 ところが現実には正反対で、むしろ格差が広がる方に向かっており、しかも自分自身が負け組かつ下流かつ経済弱者の生活を送る羽目になってしまいました。世の中には、格差があった方がいいと思う人も多いということなのでしょう。私は反対ですけど。)
 ペフリング先生は、子ども達も音楽の道に進めば、自分と同じような生活を送ることになると思い、それで子ども達には音楽から遠ざけているのでしょうか。
 しかし、政治家の娘に生まれて夫は町長という作者ザッパーは、経済的には恵まれていたと思うのですが。それにしては経済的苦労の描写は現実味があります。
  
 ということで、いい人や優等生ばかりが出てくる家庭ドラマ、『愛の一家』のお話でした。
 露悪趣味の小説やドラマに倦み、疲れた時、一遍の清涼剤として安心できる名作、たまにはこんな作品を読むのも心の癒やしになるかもしれません。
 
∽∽∽☆∽∽∽★ ◇◇◇アカデミア 読書調査◇◇◇ ★∽∽∽☆∽∽∽8
  日本人の読書体験を徹底調査!!……とは大袈裟な。 
  この作品の読書体験を問う!

☆ドイツの作家アグネス・ザッパーの『愛の一家』を読んだことがありますか。
  
ある   (4票) 12%
ない   (28票) 85%
その他  (1票) 3%
 
開始:2006年11月26日/締切:2006年12月04日18時
協力:クリックアンケート http://clickenquete.com/

★コメントありがとうございます。
2006年11月28日23時57分24秒 お名前:ひろき(H.O.)
 今初めて知りました。 ●ない
 
 ついでにもう一つ。
 現在サンテレビで再放送中で、目下これに夢中なため。

☆1973年に日本テレビ系で放送されたTVドラマ『水滸伝』(中村敦夫主演)を知っていますか。
 
知っている  (14票) 36%
知らない   (24票) 62%
その他    (1票) 3%
 
開始:2006年11月26日/締切:2006年12月04日18時
協力:クリックアンケート http://clickenquete.com/

★コメントありがとうございます。
2006年11月28日01時41分39秒 お名前:Cathy
 「水滸伝」というドラマは知らないが、中村敦夫は知っている。●知っている
2006年11月28日23時58分35秒 お名前:ひろき(H.O.)
 中国のドラマなら見ましたが・・・。 ●知らない
 
たのみこむ 日本テレビの「水滸伝」のDVD化を!
  https://ssl.tanomi.com/metoo/naiyou.html?kid=15217
水滸伝倶楽部  http://nazede.gozaru.jp/suikoden.html
  
☆ *:。.:*:・'゜☆。*:。.:*:・'゜☆。*:。.:*:*:。.:*:・'゜☆。*:。☆
 
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◆◇ メルマガ版も発行しています。 ◇◆
★┓ http://nazede.gozaru.jp/mmm.html
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たのみこむ 日本テレビの「水滸伝」のDVD化を!
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水滸伝倶楽部  http://nazede.gozaru.jp/suikoden.html
 




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