OLDIES 三丁目のブログ

森羅万象・魑魅魍魎を楽しみ・考える不定期連載ウェブログです。本日ものんびり開店休業中。

『トム・ソーヤーの探偵』の謎(ネタばれ注意!)

トム・ソーヤーの冒険』には『ハックルベリ・フィンの冒険』の他に『トム・ソーヤーの探偵』『トム・ソーヤーの探険』という続編があることを知っていたが今まで読む機会がなく、先日ようやく講談社青い鳥文庫版『探偵』を読むことができた。
 
1876年 トム・ソーヤーの冒険
1885年 ハックルベリー・フィンの冒険
1894年 トム・ソーヤーの探検
1896年 トム・ソーヤーの探偵
 
 なかなか面白く、一気に読んでしまった。少年時代のわくわくするような読書体験を思い出した。講談社青い鳥文庫は児童向け文庫ということもあり、読みやすいこともある。
 普通、『トム・ソーヤーの冒険』の続編は『ハックルベリ・フィンの冒険』ということが知られている。私も中学生時代、『トム・ソーヤーの冒険』を面白く読んで、さあ次は『ハックルベリー』に挑戦だ、と意気込んで読んでみたのだが、こちらは少々深刻で読みごたえあり、『トム・ソーヤー』のようには読めなかった経験がある。中学生の私には『ハックルベリー』の面白さを理解するほどの読解力はなかったようである。
『トム』から『ハック』に至る期間に著者のトウェインに心境の変化があり、執筆の姿勢も変わったということである。当初はユーモア小説家として活躍していたトウェインも次第にペシミストになっていって、作品にもその変化が伺われるというのが文学史上の見解のようです。
 しかしこの『トム・ソーヤーの探偵』は、『トム・ソーヤーの冒険』の頃の雰囲気に近く、気楽に読めます。『トム・ソーヤーの冒険』を読み終えたら次はこちらを読むべきです。
 
 とはいえ、現在入手できるのは講談社青い鳥文庫版のみ。完訳版も昔は出ていたようで、図書館の書庫を捜せば読むことはできるだろう。
 
 

トム・ソーヤーの探偵・探検 (新潮文庫)

トム・ソーヤーの探偵・探検 (新潮文庫)

 
 名探偵トム・ソーヤー―ソーヤーの大旅行 (1976年) (マイマイジュニア)
 トム・ソーヤーの探偵 (直読直解アトム英文双書 (59)) ←これは英語学習テキスト
  
 この小説は、ハックが語り手となっている。訳者の斉藤健一さんの解説によると、この小説の執筆当時、シャーロック・ホームズシリーズが好評を博していたそうで、ハックがワトソン役・トムがホームズ役ではないかという。
 初登場から20年後の作品ということで、20年後に成長したトムとハックがホームズとワトソン役をやっても面白いと思うが、やはりトムとハックは永遠の少年ということだろうか。
 
本の虫クラブ トム・ソーヤーの探偵・探検
  http://www.honnomushi.com/review/2006_08/0006.htm
   ↑こちらのサイト様では、

 正直言って二編ともかなり苦しい。「探偵」はスウェーデンで実際に会った事件を基にして書かれたそうであり、「探検」はジュール・ヴェルヌの質の悪いパロディという感じ。トム−ハックやトム−ジムの掛け合いにも鋭さがなく、凡庸である。
 翻訳も今ではとても出版できないだろう差別用語満載。

と、厳しい評価をされています。
 私などとは読書量のレベルが桁違いに違う皆様が書かれているのだから、そうかもしれません。
 私は読書量が少ないので、読んだ本が皆面白く感じられて甘口になってしまうのだ。
 とはいえ、今回本書を読んでみて、疑問というか矛盾を感じる部分が少々。これは縮約版によるものなのか。図書館で完訳版を捜して読む必要がある。
 ということで、以下、疑問に思った部分を覚え書き。
 ネタばれになります。注意。
 
 以下、ネタばれ注意
 

トム=ソーヤーの探偵 (講談社青い鳥文庫)

トム=ソーヤーの探偵 (講談社青い鳥文庫)

 
 
 殺人犯の容疑をかけられたサイラスおじさんを救うため、法廷でトムが事件の謎を解く、という展開。
 そもそもトムとハックはサイラスおじさんの家を訪ねる道中、森の中で偶然、事件現場を遠くから見、偽証をした者の会話を盗み聞きしているというのが都合がいい点である。
 
 宝石泥棒のジェークが森の中で裏切った仲間のバッドとハルに殺され、そこにブレースとジュピター兄弟が現れ、バッドとハルを追いかけて行った、というのがトムの推理。
 しかし、奪われた宝石を取り戻すために非常に執念深くジェークを追いかけ、ついに殺人まで犯した凶悪犯二人が、憎い裏切り者を殺してこれから宝石を取り戻そうという時に、通りすがりの者二人が来たくらいで逃げ出すだろうか?彼らの心理状態を考えるならば、こんな大事な時に邪魔するな、ものはついでだ、やっちまえ、となるのが普通ではないだろうか?殺人まで犯して捜し求めた宝石を前に逃げ出すなんて普通ではあり得ない。
 普通に並べてみても、ブレースはまだしも、ジュピターは半人前である。凶悪犯2人にしてみれば2対1.5のハンディキャップマッチ状態である。逃げ出すのはおかしい。
 
 そしてブレースとジュピターは二人を追い払った後すぐに引き返し、ジュピターはジェークの持っていた変装道具を使って別人になりすまし、ブレースはジェークの死体にジュピターの服を着せて持って行った、というのがトムの推理。
 ジェークは二人の兄弟であるが、殺された時に顔を傷付けられていたため、二人は気付かなかったとされている。
 しかし、兄弟に顔が分からなくなるまで傷付けられるとはどんな状態なんだろう。描写では、ジェークが殺されてから2組の追いかけっこまで一瞬のように描かれている。そんな一瞬のうちに顔が分からなくなるとは、どんな殺し方をしたのだろう。普通、そんな殺し方をするのだろうか。
 しかもジェークとジュピターは双子なのである。気付かないとは、ちょっと苦しい。
 
 そして、次が最大の矛盾点。
 トムとハックは、ジェークがバッドとハルに殺され、ブレースとジュピターが二人を追いかけていった場面から、ジュピターがジェークに成り済まして帰って行くシーンまでを目撃していた。
 しかし、ブレースとジュピターがジェークの殺害現場まで帰って来た場面を見ていないのである。
 これが最大の矛盾点ではなかろうか。
 トムの推理が正しいためには、二人を追いかけていったブレースとジュピターが戻る場面を見ていないとおかしいのである。しかしその描写はない。それはなぜか。
 
1)縮約版だから矛盾が出た。完訳版なら矛盾はない。
2)二人は別のルートを通って戻って来た。だからトムやハックは見ることができなかった。
3)執筆役・ハックが謎を最後まで残しておくために、わざと省いていた。
4)作者・トウェインの設定ミス。
 
 2や3の説を取るのが無難ですね。しかし今まで読んだ人で、この点について疑問に思った方はいなかったのでしょうか。
 
 
 次の疑問。バッドとハルはどうなったのだろうか。あれほど執念深くジェークを付け狙っていた二人が宝石を置いたまま逃げていなくなってしまうのはおかしい。舞い戻ってきてもよさそうなものを。
 トムは最初、4人は殺し合って全滅してしまった、と推理していた。しかし実際はブレースと木星はすぐに戻っていた。ブレース達は一瞬の間に二人を殺害してしまったのだろうか。それならば死体が出てこないのはおかしい。
 
 また、トムが法廷で気付くまで、トムとハックは変装したジュピターのことをジェークだと思い込んでいた。ジュピターはジェークがそうしようとしていたように、耳が聞こえず言葉が話せない人のふりをして村中をうろつき回っていた。トムとハックは友人となったジェークとコンタクトを取ろうとしなかったのだろうか。
 
 それから、この物語の時間経過はどうなっているのだろう。
 冒頭では季節は春である。ハックは「春のゆううつ病」にかかり、夏まで待ち遠しいと書いている。
 しかし、蒸気船に乗ってミシシッピ川を下り、上陸して森の中で殺人事件に遭遇した日付けは9月2日の土曜日。もう既に9月になっているのである。その後サイラスおじさん宅で、遅れた理由を聞かれて失言を問い質され、9月にブラックベリーは摘めないとかいうやりとりがあるから、間違いなく9月なんだろう。とすれば、蒸気船で川を下っている間に春から秋になってしまったのだろうか。
 そして法廷が開かれたのは10月中頃。ハックはともかく、トムは学校にも行かず、ずっとサイラスおじさん宅に泊まっていたのだろうか。
   
……まあ、こんなところに疑問点が残ったわけですが、大きな流れを見てみれば、なかなかスリリングで面白い展開です。
 
 あと、これは“IF”の展開について。トムとハックは蒸気船の中でジェーク・ダンラップと仲良くなる。
 一方、ジェークの兄弟のブレースとジュピターはサイラスおじさんと対立し、サイラスおじさんを殺人者に仕立て上げようとしている。
 ジェークは長年の逃亡生活を終えて実家に戻り、かくまってもらおうとしていた。
 もしジェークが二人の宝石強盗に殺されずに兄弟の元に戻っていれば、どんな展開になっていただろう。
 ジェークも兄弟の悪巧みに加担する可能性大なのだが、そうなるとトムやハックの敵になるのである。そうなると、非常に苦しい展開になっていただろう。
  
   
探偵小説三昧 マーク・トウェイン『トム・ソーヤーの探偵・探検』(新潮文庫
  http://chapcolo.blog97.fc2.com/blog-entry-506.html
リーグ・オブ・レジェンド トム・ソーヤーの探偵
  http://3rd.geocities.jp/just1bit/memo/lxg/b_tom.html
「少年少女 世界の名作文学」読書ノート トム&ハックの冒険
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20040401/p1
     
翻訳作品集成 マーク・トウェイン Mark Twain
  http://homepage1.nifty.com/ta/sft/twain.htm
マーク・トウェイン 出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%88%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%B3
トム・ソーヤーの冒険 出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%A4%E3%83%BC%E3%81%AE%E5%86%92%E9%99%BA
ハックルベリー・フィンの冒険
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AB%E3%83%99%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%81%AE%E5%86%92%E9%99%BA
マーク・トウェインならイラクからの撤退を主張する?
  http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Iraq/mark_twain_in_iraq.htm

  




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