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第14回配本 西遊記
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毎月1回を目標にしていたこのコーナーですが、半年ほど休んでしまいました。我ながら、あきれてしまいます。
今後も休むことも多いと思いますが、継続して続けて行くつもりです。
さて、今回読んだ本は『西遊記』です。丁度映画ができたとか、その映画のPRのために出演タレントが外国の映画祭に乗り込んだとか言われていたためです。
さて『西遊記』というと日本では人気のあるメジャーな作品で、TVドラマや映画やマンガや絵本にもなっており、誰でも知っている作品です。
例えば私が子どもの頃は、手塚治虫原作のアニメ『悟空の大冒険』が繰り返し再放送されており、夏目雅子や堺正章らが出演したTVドラマが放映され、ドリフターズが声をあてた人形劇『飛べ!孫悟空』が放映されていました。
その後もTVドラマや映画が色々と作られており、非常に人気のある作品です。
何でこんなに人気があるのかと思うに、目的を持ってゴール目指して旅をするという設定がいいのではないでしょうか。途中色々な敵や障害が現れ、これを克服していきます。まさしくロールプレイングゲームのような展開です。
また、一人での孤独な旅ではなく、バラエティに富んだメンバーでの団体旅というのも受ける要因でしょうか。
リーダーが一人に弟子が3人という構成は非常に安定しています。桃太郎タイプの構成です。
今風に見れば、リーダーが美女になるともっと受けやすいのではないでしょうか。
アメリカの古典的なファンタジー小説で今でも人気のあるボームの『オズの魔法使い』は、この構成です。
『ルパン三世』のメンバーも女一人に男三人の構成です。
タイムボカンシリーズの悪役トリオは女性リーダーと男二人の構成でしたが、後期には4人構成となりました。
このように桃太郎型というか西遊記型のチーム構成は非常に安定しています。
とはいえ、『飛べ!孫悟空』では5人だったり、スーパー戦隊シリーズも男4人に女1人の5人構成じゃないかという、戦隊シリーズ型のチーム構成も根強い支持があるわけですが。
実は三蔵法師を守る神仙の4人目として、玉龍がいます。彼は竜王の息子の王子でしたが、不始末のために死罪になるところを助けられ、馬となって三蔵法師を乗せて天竺まで運んでいきます。物語ではほとんど馬になっているので、目立たないわけです。『西遊記II』では藤村俊二が演じ、『飛べ!孫悟空』では役名はありませんが、すわしんじが馬の声をしています。
かのようにドラマやマンガや簡単な翻訳で知った気分になる一方で、ちょっと詳し目の翻訳まで行き着くこともあまり多くないのではないでしょうか。
私がまだ小学生くらいだったころ、3冊セットの岩波少年文庫版を上・中まで読んだことがありました。
悟空が三蔵法師と出会う以前の、誕生してから天上を騒がして五行山の下敷きになるまでの破天荒な大活躍の話が描かれていたり、悟空を“孫行者”、沙悟浄を“沙和尚”と呼んだり、これは今まで読んだ『西遊記』とは違ってかなり詳しいぞ、と思いながら読んでいました。しかし下巻は読むことなく、その後も再挑戦の機会はなく今に至る。
今回読んでみるのも、いい機会です。
←岩波少年文庫版 伊藤貴麿・訳
今回読んだのは伊藤貴麿・訳のテキストを土家由岐雄が書き直したもの。伊藤貴麿は岩波少年文庫版の訳者だから、岩波少年文庫版をダイジェストしたものでしょうか。とはいえ、小さな字で2段組で300ページ近くあるので、結構詳しく書き込まれています。だから孫悟空が三蔵法師とめぐり合う以前の大活躍も結構詳しく読めます。この時代のお話も結構面白いものです。
孫悟空が誕生してから猿達の王様となり、仙術を習うために仙人を捜すこと10年。お釈迦様の名高い弟子・須菩提阻師に弟子入りし、7年が経過。術をマスターするが、悪ふざけが見つかり、破門されて追放される。
悟空の優れた術は、須菩提阻師に教わったものだった!この時期の修行があってこそ、その後の天上を騒がす乱暴も、三蔵法師を守る活躍もあったのである。何でも修行は大切である。
しかしその後、須菩提阻師の登場はなかった。原作でも登場はないのだろうか。
悟空の術の原点である須菩提阻師からは破門されたままだとは残念である。その後再会して和解すれば、積もる話もあるだろうに。
その後悟空は竜宮城を荒らしたり、地獄を荒らしたり色々と乱暴を働きます。如意棒は、竜宮城の宝物というものを、無理やりかっさらってきたものです。
その後懐柔され、天上で馬の世話をすることになり、斉天大聖という位をもらうが、桃園を荒らしたことで再び決裂し、子分の猿達を率いて天上の神兵との大戦争を始める。
この時、神兵の大将として、二郎真君が登場する。ジロウマコト君ではなく、ジロウシンクンである。日本人の子どものような覚えやすい名前だったので、この方の名前だけはずっと覚えていました。
この時は逮捕された悟空ですが不屈の闘士で逃げ出し、ついにお釈迦様が登場。五行山の下に下敷きにされてしまいます。
それから500年の後。地上では、怠け者が多く、喧嘩や人殺しが絶えなかった。これを憂慮したお釈迦様が、正しい教えを広めるために優れた人物にお経を託すことを考えた。その人選のためにはるばる天竺から中国に向かう観音様と恵岸行者。道中、悟空他3人の神仙達に出会い、この後やって来るはずの天竺に向かうお坊さんのボディガードとなることを約束させます。このお二方の道中は、西遊記の旅に先立つ逆コース、いわば“東遊記”の旅です。あまり詳しくは描かれていませんが、視点を変えて見てみると、小説のテーマとして面白い素材となりそうです。
そして玄奘法師(三蔵法師)が観音様の目にかない、天竺への旅に出発する。
天竺に向かった三蔵法師。途中、孫悟空、猪八戒、沙悟浄、玉龍(馬)とめぐり合い、お伴にする。
私は子どもの頃から地味好みであって、陽性で暴れ者で目立っているキャラには引いてしまうところがありました。だから一番目立って活躍しているキャラより、その周辺で縁の下の力持ち的立場のキャラの方が好きな傾向があった。『ルパン三世』でも、陽性で女好きなルパンよりも、寡黙で技の向上一筋で女嫌いの次元大助や石川五右衛門が好きでした。
三蔵一行で一番目立って活躍しているのはもちろん孫悟空。この手のキャラは苦手です。しかし、豚の猪八戒も好きにはなれませんでした。子どもにとっては、“ぶた”というのは、悪口を言う時によく使われるフレーズでもあります。豚さんには気の毒ですが、仕方ありません。というわけで、私にとっては沙悟浄が一番お気に入りのキャラでした。
日テレ『西遊記』では岸部シローが沙悟浄を演じていました。氏の脂ぎっていない飄々としたインテリっぽい沙悟浄は私の思う沙悟浄のイメージにピッタリで良かった。一方、『悟空の大冒険』の沙悟浄は河童らしくなく、初め見た時は、普通のおじさんかと思いました。
今回『西遊記』を読む際、大活躍する悟空の陰で猪八戒や沙悟浄がどんな隠れた活躍をしているか注目していました。しかし読んでみれば、悟空一人だけが活躍している印象で、他の弟弟子達は全く影が薄かったので唖然としました。
例えば、沙悟浄が仲間入りして全員揃ってすぐのこと。魔物が三蔵法師を狙って若い女などに変身して近づきます。悟空はこれを全て見破り、殺してしまいますが、三蔵法師達にはそれが分からず、人間を虐殺しているように見えます。三蔵法師は怒って悟空を破門し、悟空は故郷に帰ってしまいます。そのため、三蔵一行は悟空抜きの編成となります。
その後三蔵一行は、宝像国に入り、13年前に妖怪にさらわれたお姫様を救出するよう頼まれ、三蔵法師は猪八戒と沙悟浄を差し向けます。
猪八戒や沙悟浄にとっては、ここが腕の見せ所です。十分活躍して悟空がいなくても十分やっていけることを証明しなければならない時です。二人は妖怪を相手に3時間も戦うも、決着がつきません。八戒は眠くなり、一眠りするために戦線離脱。残された沙悟浄は果敢に戦うも、捕まってしまう。
しかし八戒の無責任にもあきれたものです。確かに私もよく眠くなるので一眠りしたくなったということには同情しますが、時と場をわきまえないというのは困り者です。
妖怪は自分の追討を命じた三蔵法師に復讐するために宝像国に向かい、三蔵法師を虎に変えてしまいます。
一行の危機に奮起した玉龍が、ここは私の出番と登場しますが、これも撃退されます。結局八戒が悟空を呼びに行って悟空が戻って来てようやく解決します。
このように、悟空の力は圧倒的で、他の3人は全くかないません。龍王の息子の龍である玉龍よりも、石から生まれた猿にして須菩提阻師の弟子である悟空の方が強いのです。
また、悟空はただ単に強いだけではありません。戦いに勝つために、天上の神や地の神や水の神などと根回し・交渉し、交渉を成立させ、状況を有利にした上で勝つという、交渉上手の戦略家という一面も持っています。
子どもの頃は、ただ単に物理的力で戦って勝つということにのみ目が奪われ勝ちですが、現実社会で行われているビジネス戦争では、交渉ごとが力を発揮します。社会に出てから読んでみると、こういった悟空の交渉が非常に面白く感じられます。
あと、料理の調達や宿屋の交渉なども悟空は立派にこなしています。悟空といえば派手に活躍しているイメージがありましたが、こういった縁の下の力持ち的仕事も悟空がやっていたわけです。
一方、猪八戒や沙悟浄といえば、上に述べたエピソード以降、ほとんど物語の筋には関係せず、いるのかいないのかほとんど分からない状況です。道中現れる妖怪との戦いも、ほとんど悟空が一人でやっているような印象です。
ということで、小さい頃から好きだった沙悟浄への好感が薄れ、敬遠していた観のある孫悟空への好感がぐっと増した今回の読書でした。完訳版ではどんな記述になっているのでしょうか。完訳版を読んで確認してみたい気もします。
『少年少女世界の名作文学』44巻の后藤有一の解説によると、
孫悟空は、自然人の力と闘争心を現わし、
八戒は、人間の限りない欲望を表現して失敗をくり返し、
沙悟浄は、つねに傍観者的態度でいる知性を現し、
三蔵法師は人間の悲劇性を現しています。
と説明されています。
確かに私には頭でっかちで傍観者的態度という性質があり、だから沙悟浄に魅かれたというのも納得いきます。
しかし、三蔵法師が“人間の悲劇性を現しています”というのがどうも分かりません。三蔵法師は最後には天竺に着き、経典を持ち帰ってハッピーエンドになるのだから、何でこれが“悲劇性”となるのだろうか。難行苦行を乗り越えた“人間の強さ”を現すとか、よく妖怪に捕らわれているので“人間の弱さ”を現す、というのなら分かるのですが。
高校時代、中島敦が沙悟浄を主人公として描いた『悟浄出世』『悟浄歎異』という作品があると知りました。沙悟浄が色々と思い悩み、考える小説のようです。私自身も色々と思い悩む性格なので、非常に興味深かったのですが、結局読むことができませんでした。あの頃から私は思うだけでなかなか行動に移せないタイプの人間だったなあ。
沙悟浄 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%99%E6%82%9F%E6%B5%84
↑河童というのは日本の翻案だとか。『悟空の大冒険』の沙悟浄は原作に近いイメージという。
∽∽∽∽☆∽∽∽∽★ ◇◇◇ 書誌的事項 ◇◇◇ ★∽∽∽∽☆∽∽∽∽8
◆少年少女世界の名作文学44(名作文学50巻版)東洋編3(1965年)
◇西遊記 呉承恩(原作) 伊藤貴麿(訳) 土家由岐雄(文) 大石哲路(絵)
◆少年少女世界の名作43(名作55巻版)東洋編1(1973年)
◇西遊記 呉承恩(原作) 土家由岐雄(文) 花野原芳明(絵)
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今回、名作文学50巻版と名作55巻版を読み比べてみました。
後者は、前者を短くはしょって書き直されていました。
興味深いのは、50巻版の挿絵です。
「1960年代発行の西遊記真詮本を参考とした」と書かれています。中国の本の挿絵を模写したというのです。
中国では挿絵をこんな風に描いているのか、と驚きます。どの絵も怒ったような顔をして、怖いです。
悟空が妖怪たちと戦う場面がほとんどだからそれも当たり前なのですが、それにしても日本とは画風が大きく違います。悟空が歯をむき出して敵を睨みつけているような絵が多い。日本の挿絵ではあまり見られない表情です。
例えば、三蔵法師一行が天竺に到着してからの挿絵です。日テレ西遊記では天竺には辿り着きませんでしたが、原作ではちゃんと天竺に着いて経典を持ち帰っています。
天竺への道のりは遠く長く、14年かかったことになっていますが、その帰り道は二王様(仁王様)が雲に乗せて一気に帰り、経典を国に届けてから、仏の列に加わるため、すぐさま仁王様の雲に乗って天竺にとんぼ帰りしています。
その時の挿絵がこんな風に描かれています。
折角天竺に着いて経典を国に届け、仏の列に加わるというのに、三蔵はじめ一行の表情が怖い。まるで今から戦いに出るかのような表情です。
これが新しく描き直された名作55巻版では、以下のようになっています。
前者の構図を元にしたような構図の絵ですが、一行の表情が笑顔となっており、こちらの方が日本人の感性に合っているのではないでしょうか。
←福音館文庫版 君島久子・訳
←岩波文庫版 中野美代子・訳
西遊記 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E9%81%8A%E8%A8%98
西遊記シリーズ 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E9%81%8A%E8%A8%98%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA
飛べ!孫悟空 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9B%E3%81%B9%21%E5%AD%AB%E6%82%9F%E7%A9%BA
さて、『飛べ!孫悟空』ですが、“たのみこむ”と“復刊ドットコム”のリクエストに上がっています。
『飛べ!孫悟空』は著作権の関係でほとんど消去されて数話が残るのみという指摘もされています。
しかし、放送数年後にはまだ完全に残っていたのは確かです。本放送から数年後、土曜日の夕方5時から再放送が始まり、私は1話から見ていました。カトちゃんの初登場の、頭におしっこをかけられるシーンが印象に残っています。
しかしこの再放送は、始まってすぐ、ドリフターズに不祥事があったことから、放送が自粛されることになりました。もし不祥事がなければ、そのまま再放送されていたことでしょう。だからこの時点では、全話が残っていたのでしょう。
『飛べ!孫悟空』のマンガ版は、テレビマガジンに掲載されていました。しかし『名たんていカゲマン』の山根あおおにさんが描いていたとは気付きませんでした。
映像もマンガももう一度見てみたい。
復刊ドットコム 復刊リクエスト投票 飛べ!孫悟空
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=5790
たのみこむ ドリフの人形劇「飛べ! 孫悟空」DVD
http://www.tanomi.com/metoo/naiyou.html?kid=594
たのみこむ 「飛べ!孫悟空」完全DVDBOX
http://www.tanomi.com/metoo/naiyou.html?kid=15041
【http://meloh.net/e/rvwfg.html】
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