OLDIES 三丁目のブログ

森羅万象・魑魅魍魎を楽しみ・考える不定期連載ウェブログです。本日ものんびり開店休業中。

落語的空想科学小説『地図にない島』蘭郁二郎(ネタばらし注意!)

 
(あらすじ)
 夏も終わりとなり人影がなくなった海水浴場にて中野五郎は、奇妙な船に美少女と共に乗った叔父の細川三之助を発見する。この叔父はもう十五六年も昔の大震災の時以来、行方不明となっていたのである。
 少女が気になった五郎は船に乗り込み、少女と仲良くなるが船は発進し、地図に乗らない謎の島に着く。
 そこは世界中の科学者を集めた一大科学国であった。
 五郎は叔父に島を案内されるが、やがて一大実験の実験台と……。
 
話は唐突にオチ!落語的空想科学小説(以下ネタばらし注意)
 
 夏の終わりの寂しくなった海水浴場から物語は始まる。
 私は幼い頃から海とは縁がなく、どんなところか想像できないが、まあ寂しいだろうということは想像できる。
 そこで大震災の後に行方不明となった叔父を発見する。
 
「だいたいこの叔父、細川三之助は風変りな科学者で、研究室に閉籠っていて世間とはまったく往来をしなかったばかりか、博士号をどうしても固辞して受けなかった、ということは聞いていたが、それにしても、倒壊した研究室から忽然と姿を消したまま、今日まで一片の通知状さえくれないでいた、というのは奇矯すぎるし、その上この夏の海浜に、美少女と携えてスマートな船を乗り廻しているなどということは、凡そ想像を絶する出来事だ。」
 
 実は叔父はある大金持ちが設立した一大科学国のために働いていたのである。
 
「名はいえないよ、言えばすぐわかるからね、つまりその人はアメリカからの帰りに、船が難破して、やっと助けられたものの頭が少し変になったといわれている大金持だよ。実は漂流しているうちにこの島を発見したのでわざと頭の調子が悪いように見せかけて内地を去り、我々のような者を集めてその島に一大科学国を造っているわけなんだ。その意味で震災は科学者が大量に姿を消すにはこの上もないチャンスだった。あの時に行方不明になったという者の大部分は、現在盛んに研究に従っているからね」
 
 まるで『第三の選択』だ。
 
 しかし五郎青年が勝手に船に乗り込んだのは、この叔父と再会するためというより、一緒に乗っている美少女・小池慶子が気になったからだった。
 
「さっきお聞きしましたわね、ほっほほほ、私の名はもっと憶えいい名よ、小池慶子」
「小池慶子――さん」
「ええ、逆(さかさ)に読んでもコイケケイコ……、憶えいいでしょ、ほほほほほ」

 
 そして科学の島『日章島』では、整形技術が発達していて、誰でも美女に整形できるのであった。そしてそのモデルとなったのが小池慶子であり、島には小池慶子そっくりの美少女が大量に住んでいた。
 
 島の科学技術を幾つか紹介された跡、五郎青年はやがて男性の顔のモデルとされ、気がつくと海上のボートの上で小池慶子と共にいた。
  
 行方不明となっていたマッドサイエンティストの叔父との再会、謎の大金持ちが建設した科学の島。
 その後の波乱万丈の展開を予期させるテーマが揃ったところで話は唐突に終わる。
 折角ここまで期待させたのに、島では自分そっくりの青年達と小池慶子そっくりの美少女達が恋愛しているかもしれない……というのがオチ。
 現代落語というか、SF的落語というか。
 
 謎の島で五郎青年は冒険しないのか。謎の島とその建国者はどんな陰謀を行うのか?
 そういった冒険的要素はなく、主人公の青年は整形のモデルとされただけで島を追い払われてしまう。
 海野十三の主人公ならここから大冒険して大活躍しているのに。
 
■[速読読書]海野十三『海底都市』
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20050511/p1
■[速読読書]海野十三『三十年後の世界』
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20060212/p1
 
 何だかもったいないというか、尻すぼみというか、期待はずれというか。
 しかしこんな肩の凝らない軽いユーモアの展開もたまにはいい。
 そしてその後の科学の島『日章島』を描いた続編の展開も色々と想像したくなる。
 
 

 
   
『地図にない島』蘭郁二郎
 第1回 http://www.servicemall.jp/sokudoku/BN/l/0122001.html から
  弟25回 http://www.servicemall.jp/sokudoku/BN/l/0122025.html まで
  
青空文庫 地図にない島
  http://www.aozora.gr.jp/cards/000325/card2192.html
 
はてなキーワード 蘭郁二郎
  http://d.hatena.ne.jp/keyword/%cd%f6%b0%ea%c6%f3%cf%ba
aozora blog: 蘭郁二郎〜早過ぎたかもしれない作家〜
  http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.aozora.jp/blog/2006/12/20/post_17.html
怪美堂 蘭郁二郎の生涯
  http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.kaibido.jp/bunyoku/raniku/ran.html

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