(あらすじ)
田舎から東京に出てきた士族出身の青年・寺内は全てを失い、何もするあてもなく公園のベンチで座っていた。そこでボロ毛布を身体に巻いた老人に会い、東京で無料で生活する方法について色々と教えてもらう。
やがて寺内は地図にない街に住む富裕な女性・美代子を紹介され、一週間衣食を共にする。一月たてばまた来いと言われ、ふた月は生活できる金をもらって寺内は帰された。しかしその後、寺内は美代子にもあの老人にも会うことはできなかった。
(感想)(ネタばらしあります!)
寺内はボロをまとった老人から東京で無料で生活する裏技を色々と教えてもらう。しかしよく考えると、いつまでも続けられそうにない方法である。果たして裏があり、寺内は老人に騙されていたのである。
思えばインターネットも無料で色々できる世界である。青空文庫などでは無料で本を読むことができるし、you tubeでは無料で映像や音楽を楽しむことができる。無料でブログを書くこともできる。はてなダイアリーでは不可能だが、アフィリエイトも可能な無料ブログもある。パソコンを準備して通信料さえ払えばインターネットでは無料でかなりのことをできる。しかし油断していれば悪徳詐欺に引っかかることもあるので用心しなければならない。
美代子と別れて日常生活に戻ってから寺内は社会復帰したようである。美代子にもらった資金を元手に立ち直ったのであろうか。一時は自殺しようと思っていたことを思えば、すごいことである。やはり一文無しより資金がある方が再就職もしやすい。
以下、ネタばれあり。
実は美代子は子爵脇坂夫人であり、かの老人は家付きの七尾医師であった。真実は子ができない脇坂夫人のために七尾医師が仕組んだトリックであったのである。
歌舞伎座で偶然二人を見かけてこれを突き止めた寺内は七尾医師に面談し、医師の金と権力によって精神病院に入れられ、怒りで憤死する。
浦島太郎の現代版ともいえるべき物語。もしかして浦島太郎伝説の真相もこのような事情だった!?
確かに七尾医師や脇坂夫人が仕組んだ罠はひどいものである。
しかし考えようによっては、いい経験である。
一時は絶望して死のうと思っていたところをセレブ夫人といい関係を持って金ももらって社会復帰できたのだから。それこそ詐欺サイトから届くスパムメールの煽り文句のようなことを地でゆく経験である。
いい経験をした、と思って思い出にとっておくという考え方もあるのでは?
しかしすごいのは七尾医師である。子爵の侍医をしているからには、上流階級に属する人物であろう。特にあの当時の医師というのは相当のエリート階級であろう。
そのような地位にありながらボロをまとってホームレスの真似をして食いっぱぐれた純真な若者を騙すのだから、労働者階級のことにも通じているのである。まるでシャーロック・ホームズが阿片窟で麻薬中毒者に変装して捜査していることの詐欺師版である。
しかし子爵家の世継ぎを誕生させるために仕組んだ罠がこんな方法だとは、大胆不敵である。ばれたら地位も名誉も失うだろうに。
子だねの提供者を上流階級の青年ではなく一般庶民階級から選んだというのは、口封じしやすいからだろうか?
大胆不敵な悪のヒーロー・七尾医師。他にも色々な暗躍をしていそうである。七尾医師の冒険譚をもっと読んでみたい。
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wikipedia:橋本五郎 (小説家)
地図にない街 橋本五郎
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青空文庫 作家別作品リスト:No.900 橋本 五郎
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