OLDIES 三丁目のブログ

森羅万象・魑魅魍魎を楽しみ・考える不定期連載ウェブログです。本日ものんびり開店休業中。

『睡魔』蘭郁二郎(ネタばらし注意!)

(あらすじ)
 科学者の村田はバーで旧友の喜村に再会する。喜村は東京近郊で犬を育てる仕事をしていると言い、その夜村田は喜村の家で泊まることになる。
 折りしも日本各地で嗜眠性脳炎(眠り病)が流行の兆しを見せていた。
 翌朝、喜村の助手・山田が眠り病を発症。犬のゲンが吠えて騒いでいるのを解き放った村田は……。
 
(感想:今読んでも新しい空想科学的探偵小説)(ネタばれあり!)
 普段から寝不足で油断すると眠り込んでしまう私としては「眠り病」とは恐ろしい病気である。これにかかると二度と目が覚めることなく眠るように死んでいくという。
 苦しまずに眠るように死ぬのなら安楽死ではないか。それならかかってみたいくらいである。もうやり直すのが無理なところまで来ている。ゲームオーバーしたいのである。
 
 医科学者の村田は眠り病の原因や治療法を研究しているが一向に分からない。
 しかし眠り病発生の時に犬が騒いでいることから超音波に見当をつけ、犯人を発見する。
 なかなかアイディアに満ちた空想科学的探偵小説とでもいうべき作品。今読んでも古くない。
ウルトラQ』や『怪奇大作戦』の1話になりそうな作品である。
 
「つまり人間の耳の可聴範囲外の、毎秒三四万振動ぐらいの超音波だったから人間にはなんにも聴こえない――。けれどもその超音波といっても色々あって、調節して人間の鼓膜には一向感じないけど、直接に頭蓋骨を透(とお)して脳髄に響く超音波も出来るわけだ。それを利用したんだ、君ね、一定の単調な音を聞いていると睡(ねむ)くなるような経験はないかい……、それさ、それと同時に、これは脳髄をしびれさすような力を持っている筈だ」
 
「「つまり、これは大陰謀なんだ、帝都を眠り病の死都と化さしめようという、恐るべき大陰謀だってことが、タッタ今わかった……」」
 
「眠り病の原因が物理的なもんだとは古今未曾有の大発見さ……、しかもこれを素早くスパイの奴が利用していたんだから恐ろしいね、東京全体を眠り殺すばかりか、君の話によると国境方面の警備隊にまでやっていたんだからね……、殺人光線が掛声ばかりで、空気中に導帯をつくる問題で行きなやんでいる際に、その恐るべき殺人音波、眠り音波が着々と猛威を振いはじめていたんだぜ」
 
 トランクケース大の超音波を発生する装置があり、電燈線から動力を引き込む仕組みになっている。×国のスパイはその装置を担いで屋根裏に忍び込み、配電線につないで超音波を出すという涙ぐましい努力をしていた。
 
 しかしこの超音波もそう強くはないようである。
 
「ただね、相手が音波だしそう強烈なもんじゃないから、先ず子供とか過労者なんかがやられたんだ、しかしこれとても持続してやられたら健康な青年でもたまらない訳さ」
 
 実際、この眠り音波がどのように使われていたのか話の設定に不思議なところがある。
 音波はどのくらいの距離届くのだろうか?
 実際、バーの中では村田や喜村など他の客は何ともなくてウェイトレスのハルミだけが発症。また、村田達が駅に向かう途中、歩いてきた少年が突然発症。喜村の家では助手の山田のみが発症。近くにいた村田達は何の被害もなかった。
 これらの時犯人はどこから超音波を発生していたのだろうか?屋根裏のような至近距離まで来ていたのだろうか?それとも、音波は遠くまで届くのだろうか?超音波に感受性が高い人と低い人の個体差が激しいのだろうか?
 一応日本全国で発生しているのだから、眠り超音波の届く範囲はある程度広くなければ成り立たない。
 それに、×国のスパイは複数潜入して各地で同時多発的に工作しているはずである。
 
 そういった細かい設定が気にはなるのだが、なかなかスリルに富んだ面白い作品だった。 
   
睡魔 蘭郁二郎
 第1回 http://www.servicemall.jp/sokudoku/BN/l/0126001.html から
  第18回 http://www.servicemall.jp/sokudoku/BN/l/0126018.html まで

   
青空文庫 図書カード:No.2191 『睡魔』
  http://www.aozora.gr.jp/cards/000325/card2191.html
 
aozora blog: 蘭郁二郎〜早過ぎたかもしれない作家〜
  http://www.aozora.jp/blog/2006/12/20/post_17.html

怪美堂 蘭郁二郎の生涯
  http://www.kaibido.jp/bunyoku/raniku/ran.html
 




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