OLDIES 三丁目のブログ

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橋下徹『わが交渉』 最後に思わずYESと言わせる最強の交渉術

 

 
 今や飛ぶ鳥を落とす勢いのカリスマタレント独裁者・橋下徹がタレント時代に自らの手の内の一端を明らかにした書。
 これを読めば橋下が単なる人気だけのタレントではなく、経験も実力もあり、過酷な生存競争の中で生き抜いてきたということが分かる。
 橋下と討論する際は死地に赴くつもりで必死に準備・シミュレーションを行って万全の状態で行かないと散々に負かされて大恥かかされるであろう。
 朝まで生テレビで橋下に手玉に取られた先生方も、事前に本書を読んで危機感を持って臨むべきだったのだ。
  
……ということで詳細は実際に読んで頂くことにして、注目すべき点を幾つか紹介します。
  
(学者批判について)
 
 朝生以前から学者先生を目の敵にしていた橋下先生、本書でも学者先生を批判しています。

 巷にあふれる交渉をテーマにした本の多くは、まとまらない交渉もあるということを前提にしていない。
あたかもすべての交渉がまとまるものであるかのような錯覚にもとづいたものばかりである。
実務家の立場から言わせてもらえば、それらの本の著者は現実をまったくみていないということになる。
腕利きの交渉人が秘術のかぎりを尽くして、どんな複雑な問題も解決してしまうーーこんなお話はフィクションに過ぎない。

……と、まとまらない交渉に執着するのはエネルギーの浪費で、裁判に持ち込むとか、その問題は捨てて他の問題に取り組むなど次のステージに向かうという。
   
そして交渉の上でお互いの主張に対する攻防について、
「相手の主張の不当性を追求し論破する」
「こちらの主張の正当性を納得させる」
というパターンがあり、巷の交渉ノウハウ本はこれらの点にスポットを当てたものばかりである。
 これは交渉を机上のものとしてのみ扱っている学者の自己満足。日々紛争解決に関わる実務家の立場からすると、これほど無益なものはない、とコテンパンである。
  
ではどうすればいいのかというと、私が本書を読んだところを大きくまとめると、お互いの主張をすり合わせて譲歩し、合意に至る方法のようである。そしてその過程で、仮装の利益 など様々なテクニックやトリックを駆使して有利に交渉を持っていくようである(不満足の分配作業)。
 
……と本書ではこう書かれていますが、最近の教師や労働組合を相手にした交渉では、本書では自己満足で無益、と書いていたはずの、相手を徹底的に追いつめて論破し、壊滅にまで持っていこうとしていますね。
 教師や労組も完璧に見くびられて敵視されている、ということなんでしょうか。
 
 本書では、TVでの発言が元で学者先生とトラブった経験についても書かれています。
 
「学者であっても、公の職にあって、給料として税金を受け取る以上は、あらゆる批判を無条件に受け入れるべきだ」
 
……と書かれています。現在、橋下市長先生も公の職にあって、給料として税金を受け取る立場となっていますが、あらゆる批判を無条件に受け入れる器量はあるのでしょうか……?
 
 その他、面白いと思った実戦テクニックなどを紹介します。

一度オーケーしたものを゛ノー゙にしてこそ勝機がみえる
言ったことに無理やり前提条件をつける、オーケーした意味内容の範囲を狭める戦術

詭弁を廊してでも黒いものを白いと言わせる技術。巷間耳にする、心理学者や大学の先生方の交渉理論では、ほとんど触れられないもの。
橋下氏が担当する交渉ごとはもつれにもつれた案件がほとんどなので、“まっとうな交渉理論”だけでは決して太刀打ちできず、このような実戦的ノウハウが必要だという。

ありえない比喩による論理のすり替え法
 まったく無関係な比喩によって、相手の主張が間違っているかのような錯覚に陥らせる

 この方法、小泉純一郎もよく使っていなかったか?

 私だって交渉でせこいことはたくさんしている。オーケーしたことは反故にしていくし、責任転嫁も徹底的にする。

 おかしなもので、こちら側の譲歩は譲歩とは言えないようなものであっても、それを提示するに至るまでの苦労を強調すればするほど、それにのらない相手方はおかしいんじゃないか、という空気がその場を支配していくことがある。オーケーを言わない相手方は、なんとなくおかしいという思いにとらわれていくのだ。これが仮装の譲歩を強調するというテクニックである。

 相手方を悪者にするというテクニック、これは強烈である。
 橋下も小泉純一郎もこの技術は超一流であり、橋下や小泉に批判された者は極悪人扱いされる風潮である。
 これはヒトラー始めナチスが行った方法に通じるだろう。

 交渉術には、先手必勝という考え方はない。先攻は明らかに不利だ。常に“後出しジャンケン”で攻める。相手方の手は何かを見極めたうえで、自分の手を考えていくべきだ。

 今後の対ハシズム戦線においても注意すべき点でしょう。

相手に考える間を与えないテクニック
 交渉には勢いが必要。相手が揺らぎだしたら考える時間を与えず一気に結論にもっていく

感情的な議論をふっかけて交渉の流れを変える
 交渉の流れが明らかにこちらに不利になってきたら、不毛な議論をふっかけて煙に巻く

 これらも、今後ハシズムの論客と議論する際に注意しておくべき点でしょう。フェアプレイで臨めば罠にはめられます。
 フェアプレイなどはなから眼中にない、どんな汚い手を使っても勝つことを考える油断のならない相手だと気を付けることです。
    
……と、やさしさがあだとなる裏の世界での仕事術について述べられています。
 しかし、一般的なビジネスの世界や自分の成長に役立つ記述も沢山書かれています。
 
 例えば、橋下事務所で心がけていること。
 来訪者があれば、事務所の全員が仕事を休めて起立して迎えるという。
 こりゃあすごい。こんなことされたらいい気分だろう。
 もちろん、来訪者があまりない法律事務所だからできることであって、来訪者が並ぶほど来る市役所なんかではいちいち立っていたら仕事にならないだろう。
 しかし、橋下市長からバッシングの対象になるであろう大阪市役所の皆様はじめ、一応読んでおく価値はあると思います。
 
 他、今の私には手遅れといいますか、今からでも少しづつでも心がけていきたいというか、自分には決定的に欠けていると自覚している点でもいい記述があって、覚え書き的に引用しておきます。

あとは、当事者とのタフな交渉に耐えるだけの力をもたないといけない。
学校を出て就職してしまうと、自分の仕事や興味/関心の外にある物事に目を向ける機会は激減してしまう。確かに、普通のビジネスマンが総会屋や右翼と話すチャンスはないだろう。だが、会社という鳥かごを飛び出して、いろいろな人にもまれる経験はぜひともすべきだ。いつも同じ上司や同僚、部下と飲んでいるだけでは、とっさの判断力や直感は鈍っていくだけである。
総会屋・右翼の実力者は、人間的な経験値・交渉能力ともに並のビジネスマンをはるかに上回る。最終的には、法務や総務に彼らと渡り合えるだけの人間をあてるか、強力な代理人に依頼するかしないと対抗できない。

……確かにその通りでしょう。
 ここで総会屋や右翼の実力者が例として挙げられていますが、左翼の実力者はどうなんでしょうか?
 護憲・市民運動の実力者は?環境・脱原発運動などの実力者はどうなんでしょうか?
 例えば、加藤周一さんや井上ひさしさんと橋下が対談したとしたら、お互いどう思うのでしょうか。

今後、ビジネスの世界ではますますボーダーレス化が進んでいくと思われる。仮に魚屋さんのトラブルを解決する際には、水産業界の共通項に沿って話をし、芸人さんの問題をまとめるときには、芸能界の共通項に沿って対策を練れるようでないと交渉はうまくいかない。将来的に理想とされる交渉人とは、あらゆる業界の問題に通暁した究極のジェネラリストである。
そのためにも、異業種の人との出会いは大事にすべきだ。属している業界の問題点の傾向、何が好まれ、何が忌み嫌われるのかといったことを聞く機会が得られる。

 生身の人間を相手に生きた交渉をするには、机の上だけで得た知識以外に必要なものが非常に多い。そして交渉においては“だれとでも話せる”力が大変重要だ。この力は多くの人と接することでしか養えない。
 純粋培養されたエリートは、タフネゴシエーターにはなりにくい。自分と非常によく似た人間しかいない環境で育った彼らには、異質な環境で育った人との会話は苦痛なだけだ。進学校から有名企業へのお決まりのコースでは、異業種・異職種の人と利害関係をうまく調整する方法は学べない。
 だが、現実の交渉相手のなかには、自分と異質な背景をもった人がたくさんいる。むしろよく似た人のほうが少ない。そんな人ともめごとをうまくまとめていくことが本当の交渉なのである。

 これは、私の個人的体験を通じての感想だが、思春期を迎える幼少期・少年時代の過ごし方が大事だと思う。
 大阪という街で、暴走族やヤクザ、右翼と入り混じって生活をした体験は、私にとって何にも増して重要なものと言える。
 交渉力を高めていくうえでは、多種多様な人と接することが大事だ。

 
 私には決定的に欠けていること。純粋にすごいと思います。
 しかし、“暴走族やヤクザ、右翼”と入り混じって生活したと書かれていますが、“左翼”とは完全に没交渉だったのでしょうか。

【交渉のラストシーンは握手で締める】
 確かに、現実には多くは一部解決だ。裁判まで行っても、両者が納得した形で解決には至らない事案もある。それでも理想はもっていたい。
 私は交渉のラストには相手方と握手を交わすことにしている。握手ができる間柄になったということは完全な解決に至ったということを意味している。それをできるかぎり目指したい。
 交渉に当たる人間なら、だれしもそんなスピリットを胸に抱いていてほしいと切に願うものだ。

……と素晴らしい理想で締めくくっています。
 しかし、最近の橋下市長の行う労働組合や教員への弾圧は握手で締めるどころか、徹底的に締め上げて弾圧して、最後には逮捕・虐殺に至りかねない勢いではないでしょうか。
 そしてこれは、将来的には対象者を維新に対する反対者全般に広めて、まるでナチスが行ったような反対者への弾圧・虐殺につながっていくように思われます。
 本書を書いた時点から一体どんな心境の変化があったのでしょうか。
   
 以上、著書を通して橋下徹を見てきました。
 決してあなどれない相当の実力者だということが伺えます。
 この実力に加えて、今では絶対的権力も圧倒的人気も持っています。
 マスコミなどPR・プロパガンダ手段も持っています。ツイッター力も圧倒的です。
 これらをうまく組み合わせて活用すれば、「カリスマタレント独裁者」となることも不可能ではないのではないでしょうか。
  
 ヤクザや総会屋相手に交渉していたテクニックを国民の洗脳に応用する。
 
「群衆に思わずYESと言わせる最強のカリスマタレント独裁術」
 
です。
 閉塞感漂う現在の大阪で、日本で、ナチスドイツの悲劇を繰り返すことはあり得ないと、誰が言えるのでしょうか?
  
 この危機的状況に対処するには、相当実力を練って、相当の覚悟を持っていかねばならないでしょう。
 橋下徹率いる維新の会が行うファッショ的政治に抵抗しようとする人々が罠にはまらないように手の内を知るためにも読んでおくべき書ではないでしょうか。
 
 最後に思わずYESと言わせる最強の交渉術―かけひきで絶対負けない実戦テクニック72 図説 心理戦で絶対負けない交渉術 原発危機と「東大話法」―傍観者の論理・欺瞞の言語― 
  現代日本の二大詐欺的話法! 西の橋下話法!  東の東大話法! 
  
橋下徹の言論テクニックを解剖する
  http://www.magazine9.jp/hacham/111109/
橋下徹の言論テクニックを解剖する その2
  http://www.magazine9.jp/hacham/111111/

  
四丁目でCan蛙
 橋下徹氏の言論テクニック」について
  http://d.hatena.ne.jp/cangael/20111124/1322103973  
橋下市長の大阪都構想を、きちんと考えてみる
 橋下徹氏の最強交渉術
  http://miniosaka.seesaa.net/article/182172888.html

  
OL男子の4コマ書評
橋下徹大阪市長の著書「心理戦で絶対負けない交渉術」がエグ(タフ)すぎるので4コマにしてみた
  http://blog.chakuriki.net/archives/51308402.html
橋下徹大阪市長の「心理戦で絶対負けない交渉術」その2
  http://blog.chakuriki.net/archives/51312844.html
【4コマ漫画】橋下徹大阪市長の交渉術がエグ(タフ)すぎる件その3
  http://blog.chakuriki.net/archives/51314586.html

    
弁護士のため息
 橋下氏と豊臣秀吉と堺と。
  http://t-m-lawyer.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-81e5.html
ハシズム」人気のわけは? 口撃受けた4氏が分析・・・確かにすさまじい「口撃」だった。
  http://t-m-lawyer.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-4919.html
JBL4344とプラスα  橋下徹とは何者か(3)
  http://minpo.exblog.jp/17808059/
知ってトクする小技集♪
 橋下徹の交渉術まとめ
  http://tipsmemo.blogspot.jp/2012/09/blog-post.html

  
すり替え、詭弁、責任転嫁---借金を6兆円に膨らませても「改革者」に納まった橋下前大阪府知事「最強」の言論術を検証する
  http://gendai.ismedia.jp/articles/-/27300
「破産会社」はほんとうに「優良会社」になったのか。首長としての実績を問う---橋下「大阪府改革」を検証する
  http://gendai.ismedia.jp/articles/-/26964
   

★阿修羅♪ > 昼休み52 > 452.html
「最も危険な政治家」橋下徹研究 孤独なポピュリストの原点
  http://www.asyura2.com/12/lunchbreak52/msg/452.html
    
■[Twitter]脱ハシズムに一票 のつぶやき
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20120201/p1
■[日々の哲学]議論で勝つ方が正しいのか
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20120206/p1
■[日々の哲学]日本の極限状況で、橋下だけが〈言葉〉を持っているのか!?
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20120208/p1
■[日々の哲学]タレント独裁者のバラエティ独裁制
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20111122/p1
■[日々の哲学]無軌道戦士ハシズム
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20111128/p1
  

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