(ネタばらし注意!)
(あらすじ)
ロンドン郊外に丸部氏が建てた時計塔。
莫大な財宝を隠す秘密の倉庫を兼ねていたのであるが、丸部氏は塔内で遭難死。
その後塔を買い取った輪田お紺は養女・夏子に殺害され、夏子は刑務所で狂い死んだ。
丸部氏の血筋をひく丸部朝夫は塔を買い戻すことにし、おいの丸部道九郎を使いに出す。
道九郎は時計塔で謎の美女・松谷秀子と出会う。
その後、和田お紺殺害事件やその後に続く夏子の裁判に関係する、一癖も二癖もありそうな怪しげな人々が続々と集結。魑魅魍魎の事件が展開されるのであった……。
(書誌的事項)
【今回私が読んだ版は】
少年少女世界の名作〈48〉日本編 4 (昭和50年)
小学館少年少女世界の名作48 日本編4 1975年1月25日発行
『ゆうれい塔』
黒岩涙香(作) 森いたる(文) 石原豪人(画)
http://nazede.gozaru.jp/list07.html
黒岩涙香の『幽霊塔』リライト版が少年少女向け名作アンソロジー全集に入っていたとは、毎度のことながら、このシリーズは素晴らしいですね。
分量もたっぷりとあり、黒岩涙香の世界をたっぷりと堪能できました。
しかしよく考えてみると、伏線の回収ができていなかったとか、説明が不十分だったとか、行為の意図が良く分からない人物も存在しているような。
そこら辺、私の読み方が不十分なのか、原作では完璧なのか、他のリライト版ではどうなっているのか、読み比べて見るのも面白そうです。
語り手兼主人公は丸部道九郎青年で、探偵役でもあります。
推理するだけでは飽き足らず、虎と闘ったり、自ら捜査・冒険に乗り出して危機に陥ったりします。
一方、道九郎青年が何者かにナイフで刺されるという事件が発生。
その捜査のために、ロンドンから敏腕のほまれ高い、森主水探偵がやって来ます。
ところがこれがとんだ一杯食わせ者で、ほとんど活躍しないばかりか、道九郎青年の捜査の邪魔ばかりすることになります。
物語は謎が謎を呼ぶ展開で、クモ屋敷(養虫園)主人・穴川甚蔵や、医学士・大場連斎など、怪しげな人物が続々と登場。
もしかしたら、いやしかしそんなことあり得ない、と思っていたのですが、まさか本当に「ドウエル教授の首」を思わせる怪奇SF的展開になろうとは。
まさにポール・レぺル博士はフランケンシュタイン博士とドウエル教授の系譜に属する天才的マッドサイエンティストでしょう。
1818年 フランケンシュタイン
1898年 灰色の女
1925年 ドウエル教授の首
黒岩涙香の『幽霊塔』は、長く原作が不明ということでしたが、21世紀になってようやく原作が確定し、原作の翻訳も出たとか。
その辺のいきさつは、ウィキペディア等で知ることができます。
幽霊塔
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%BD%E9%9C%8A%E5%A1%94
←幻の原作 ついに発見!ついに翻訳!!
また、黒岩版をさらに江戸川乱歩が翻案した版や、それぞれを少年少女向けにリライトした版も色々と出ているようです。
少年探偵江戸川乱歩全集〈45〉時計塔の秘密
何と西條八十も『幽霊の塔』という作品を書いていたようです。
また、知る人ぞ知る【少年版江戸川乱歩選集】(講談社)でも、中島河太郎がリライトした『幽霊塔』が収録されています。
少年版江戸川乱歩選集
http://goutengou.web.fc2.com/shounen-ranpo-senshuu.htm
少年版江戸川乱歩選集について
http://homepage2.nifty.com/teiyu/journal/mura_0403.html
これらのリライトリストに、今回ここで紹介しました、森いたる版を追加しておくことは、日本の探偵小説の歴史を知る上で意義のあることだと思います。
また、全く違う作品ですが、海野十三に『時計屋敷の秘密』という作品があります。
仕掛けのある謎の時計塔が出てくるという舞台設定が本作品と共通しています。
恐らく海野十三も少年時代、『幽霊塔』を愛読していて、そこからインスパイアされた作品なのではないでしょうか。
■[速読読書]海野十三版・少年探偵団『時計屋敷の秘密』
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20090523/p1
……と、ここまで書いて、黒岩涙香の原作を参照してみました。
幽霊塔 (1980年) (旺文社文庫)
改行も少なく、ページに文字が詰まっていて、そんな状態が400ページ近くあります。
さすがに全部読むのは大変なので、最後の方だけ読んでみました。
実は何と、今回読んだリライト版は最後の方はかなり改変されていて、尻切れトンボ的に強引に終わらせていたのだった!
伏線が回収されていないのも、説明不足の感があったのも、行動が説明できない人物がいたのも当然なのでした。
まだまだ解明されていない謎・隠されていた謎の種あかしが残っていたのでした。
まさに
“衝撃の事実が判明”
状態です。
ということで、この森いたる版『ゆうれい塔』は、黒岩涙香『幽霊塔』の入門や継承に重要な役割を果たしているわけですが、作品の本当の面白さを味わうには、原作と読み比べてみる必要があると思います。
また、この版の挿絵は石原豪人によります。この点もまた、貴重な資料的価値を高めているのではないでしょうか。
石原豪人
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E5%8E%9F%E8%B1%AA%E4%BA%BA
また、『幽霊塔 (1980年) (旺文社文庫)』には、巻末に中島河太郎の解説が収録されています。
刊行当時(1980年)は、未だ原作について判明しておらず、江戸川乱歩も色々と調査したが分からなかった、というようなことが書かれています。
なお、解説を書かれた中島河太郎氏は、1970年発行の【少年版江戸川乱歩選集】(講談社)で、『幽霊塔』を担当されています。
odd_hatchの読書ノート
黒岩涙香「明治探偵冒険小説集1」(ちくま文庫)_「幽霊塔」所収
http://d.hatena.ne.jp/odd_hatch/20110510/1304980270
探偵小説徒然草 幽霊塔!幽霊塔!幽霊塔!
http://blogs.yahoo.co.jp/ich25263/22906368.html
札幌の六畳一間 十時間居座った
http://hennahon.at.webry.info/201008/article_6.html
定有堂ジャーナル 幽霊塔はいくつある?
http://homepage2.nifty.com/teiyu/journal/mura_0501.html
尖端猟奇大パノラマ 大怪奇探偵小説 幽霊塔 江戸川乱歩
http://www.sakai.zaq.ne.jp/rampo/ramposaron/yureito.htm
黒岩涙香さんの「幽霊塔」と江戸川乱歩さんの「幽霊塔」 内容は同じですか?
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1079924860
復刊ドットコム 復刊リクエスト 幽霊塔 南洋一郎
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=53036
復刊ドットコム 復刊リクエスト 幽霊の塔 西条八十
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=13992
復刊ドットコム 復刊リクエスト 幽霊塔 黒岩涙香
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=7768
復刊ドットコム 復刊リクエスト 少年版江戸川乱歩選集 全6巻
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=4386
江戸川乱歩も書いてた!】最近コミカライズもされた名作『幽霊塔』について解説する!
http://matome.naver.jp/odai/2136214073072583701
■[名作文学]ジュブナイル版 黒岩涙香『死美人』
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20120213/p1
■[名作文学]ルコック探偵 河畔の悲劇(オルシヴァルの犯罪)
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20111221/p1
■[名作文学]ルコック探偵尾行命令(ネタばれ注意!)
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20120106/p1
■[名作文学]世界推理小説大系第2巻 ガボリオ 永井郁・訳 東都書房
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20120131/p1
■[名作文学]怪盗ファントマ(ネタばらし注意!)
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20120524/p1
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