OLDIES 三丁目のブログ

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小学生がスティーヴン・クレイン『怪物』を読んでいた!

 少年少女世界の名作文学18 アメリカ編9(小学館)に、スティーブン・クレイン『怪物』が収録されていました。

『怪物』 スティーブン・クレイン原作  及川甚喜(文) 古賀亜十夫(絵)
 (小学館 少年少女世界の名作文学18 アメリカ編9 に収録)
  1968年8月20日発行

 小見出しに「怪人あらわる」とかあります。
 子ども向けの本で「怪物」だとか「怪人」だとかいう言葉が入っていると、私なんかは、怖い怪談話ではないだろうか(L・ハーン『怪談』のような)とか、怪物だとか怪人だとかが出てきて退治する話ではないか(ウルトラマン仮面ライダーのような特撮ヒーローもの、或いは怪人二十面相のような怪人が出てくる探偵もの、『フランケンシュタイン』のような恐怖もの)とか思ってしまいます。
 ところが読んでみると、アメリ自然主義文学の重い内容の話でした。

(あらすじ) 
 黒人のヘンリー・ジョンソンは、町きってのしゃれ男で通っていて、ベラ・ファラガット嬢と婚約している幸せな生活を送っていた。
 ところが、ヘンリーが働いているトレスコット医師の邸宅が家事になる。
 ヘンリーは仲良しでもあるトレスコットの一人息子のジミー少年を助けに行き、救出に成功するが、薬品で大けがをしてしまい、片目を残して顔が焼けただれ、頭もおかしくなってしまう。
 トレスコット医師の看病で命は助かったヘンリーであるが、その後は怪物として町の人から厄介者扱いされ、恐れられるのであった……。

    
 タイトルから想像したような冒険活劇ものではなく、なかなか重いテーマの作品です。
 ジミー少年を助けるために犠牲になったヘンリーを称えたり、その後、ヘンリーを恐れたり、無責任に風向きが変わる世論や噂話が批判的に描写されています。
  
 犠牲になったヘンリー・ジョンソンは黒人であって、アメリカの人種問題も絡んできます。
 しかし、人種だとか階級や階層とか関係なく、同一の階層にいる人物同士として考えると、どうでしょうか。
 或いは、ヘンリーは精神がおかしくなりましたが、精神は正常に保っていたという状況ではどうでしょうか。
 或いは、ヘンリーは片目は無事でしたが、両目とも失ってしまった場合はどうでしょうか。
 これは決して黒人奴隷がいた時代のアメリカに限らない問題です。
 いつ自分達も直面するかもしれない身近な問題ですね。
 いざ自分が似たような状況に陥った時、どう行動するでしょうか。
  
 トレスコット医師は、ヘンリーは息子の命を助けてくれた恩人だと言って、一貫してヘンリーを保護します。
 この物語の主人公はむしろ、トレスコット医師のようです。
  
 ヘンリーが命がけで守ったジミー少年ですが、ヘンリーに対して特別な感情を持たずに、他の子ども達と同じような態度で接しています。
 今後ジミー少年が成長すると、態度はどう変化していくのでしょうか。
  
 物語は淡々と進んでいきます。
 どんでん返しやらあっと驚く結末やら奇跡などは起こらず、トレスコット医師が今後もヘンリーを保護していく、と表明して物語は突然終了します。
 途中、ユーモア的な描写なんかもありますが、全体的に、そして結末も重苦しい雰囲気。アメリ自然主義文学ですね。
  
 恐ろしい怪物も、出自には悲しいものを背負っているという。むしろ怪物は人々が生み出したものだという。
 昔話なんかに良く出てくる鬼だとか怪物なんかも、そういったものかもしれません。
 特撮番組に登場する敵役にも、そのような出自のものがありそうですね。
ウルトラマン』や『ウルトラセブン』なんかにも、そのようなストーリーがあったような。
      
……とまあ、大人になってから読んでみると、なかなか深く考えさせられる物語であります。
 ところがこれを小学生に読ませますか。
 なかなか思い切った選択であります。
   
 作者のスティーブン・クレインは、アメリ自然主義文学の先駆者として、アメリカ文学史上では高い評価を受けているようです。
 しかし、日本ではあまり知られていないような。
 試しに検索してみますと、文学研究者が書いた専門の論文が色々と出てきます。
 日本では専門家が研究の対象として論文で論じる作家であって、一般の人の読書の対象としてはあまり知られていない作家であるような。
  
 このような作家の作品を、小学生向け文学全集アンソロジーに採用するとは、なかなか高度な文学全集であります。
 一体どのようないきさつで収録されることになったのでしょうか。
 編集委員の中に、この作品を一押しするメンバーがいたのでしょうか。
  
 ともかく、この当時の小学生は、スティーブン・クレインを読んでいたのであります。
 私は名前すら知らず、アラフォーになってようやく小学生向けの文学全集で読んだわけです。
 いや全く、この全集はすごいレベルですよ。
  
 私も残りの人生がどれだけあるのか分かりません。
 頼みの速読もいつまでたってもマスターできず、完訳で読んでたら終わりそうにないので、せめてこの全集を読んで、人類の文化的遺産の片鱗でも味わっておこうと思っております。
   
    
■[名作文学]小学生がモリエールを読んでいた!
  http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20120828/p1
  
小学館 少年少女 世界の名作文学(全50巻)
  http://nazede.gozaru.jp/meisakubungaku.html
        
wikipedia:スティーヴン・クレイン
    
ミスカトニック大学付属図書館資料室 スティーヴン・クレイン
  http://www39.atwiki.jp/nameless_city/pages/213.html
     
翻訳作品集成 スティーヴン・クレイン
  http://homepage1.nifty.com/ta/sfc/crane_s.htm
   
妄想博物誌 怪物 怪物の修正
  http://blog.goo.ne.jp/swan-lake1213/e/2ab3d8235cc8be3c91bfbde731fe8830
  http://blog.goo.ne.jp/swan-lake1213/e/2431034573a7e95b04e8db0ae4ce4481
   
 キャラヴェラス郡の名高き跳び蛙・怪物 (1960年) (双書・20世紀の珠玉)
  赤い武功章―他3編 (岩波文庫)
   マギー・街の女―オープン・ボート スティーヴン・クレインの手記
    スティーヴン・クレイン物語―波乱に富んだ奇才の半生
     スティーヴン・クレイン研究序論―抵抗と限界
      スティーヴン・クレインの眼
    
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