朝日新聞朝刊で連載されていた筒井康隆『聖痕』が3月13日、238回をもって(了)となりました。
筒井康隆様、筒井伸輔様、ありがとうございました。お疲れ様でした。
あっという間に終わったと思ったら、1年なかったんですね。
どうりで主人公がどんどん成長して時間の経過が早かったはずです。
あまり読み慣れない古い言葉が沢山出てきて文章がずらずらとつながり、地の文と会話が混然一体となった、個性的な文体でした。(注)を指差しながら読んだのもいい思い出。
連載開始早々、主人公が陰惨で猟奇的な事件に見舞われます。
その後、主人公のおじいさんが非業のあっけない死を迎えます。
つい先ほどまで血気盛んに激怒していた人がこんなに簡単に死ぬものか、と、物悲しい気分にさせられました。
その後、主人公と正反対の弟と、骨肉の争いを展開する物語なのか、読むのが苦しくなりそうだな、と思いましたが、どうやら展開はいい方向に向かっていきました。
思えば、登場人物は、あまり悪い人は登場せず、いい人が多かったですね。
(以下ネタバレ注意!)
最初はどうしようもない悪たれで主人公の敵役になるのかと思っていた弟君も更生の方向に向かったようで、うるさくつきまとうストーカーがいましたが、弟君の更なる更生のきっかけを作って退場していきました。
時代背景を描きながら時代はどんどん進んでいきます。
バブルの到来からバブル崩壊も描かれ、リーマンショックまで描かれ、東日本大震災を思わせる大地震も描かれます。
主人公は被災地に炊き出しのボランティアに行き、偶然、宿命の犯人と再開し、許します。
この許し、象徴的ではないでしょうか。
金杉君が、人類のあるべき未来について語ります。
「これからはやはり、リビドーや複合観念(コンプレックス)の呪縛から脱した高みで論じられる、静かな滅びへと誘い、闘争なき世界へと教え導く哲学や宗教が必要になってくるだろうね。その場合にはナショナリズムを排除しなければ、その布教を世界に敷衍(ふえん)することはできない筈だ。どうせ滅びるなら仲良く和やかに滅びに到(いた)ろうではないかと諭すんだ。飢餓による資源の奪いあいやナショナリズムが残るとしても、キリスト教や仏教みたいに理想だけは高く掲げなきゃね。日米関係もTPPも領土問題も最終的には食糧問題に包含され収斂(しゅうれん)される。世界国家に領土は不必要という認識にまで登り詰めれば、残り少ない食べ物を分けあいながら、幸福に、そして穏やかに滅亡していけるだろうよ」
この未来観に向けて、物語は必然的に進んできたのではないでしょうか。
(3月14日追記)
主人公は世俗的な欲望から超越しているため、人々を調停するというか組み合わせるというか、縁結びのようなことが得意。
主人公は色々な事件を引き起こすというか巻き込まれますが、大概の事件はほどよく解決し、人々はほどよく幸せになります。
(実は私は全く逆の展開、人々が不幸になっていくのではないかと恐れていたのです。まあ全国紙の朝刊でそんなブラックな展開はあり得ないですね。)
金杉君が主人公の周りを宗教に例えるシーンがありましたが、言い得ています。
主人公の年の離れた妹もどことなく異彩を放っています。
彼女も今後どのようなドラマを演じていくのでしょうか。
インフレにTPPに領土問題に……。
彼女が今後育っていく人生こそ日本人が今後直面する問題が描かれるはずです。
(実は本作品は彼女による壮大なドラマのプロローグだったりして)
(3月18日追記)
文体の実験、伴走に感謝 筒井康隆さん「聖痕」を終えて
http://www.asahi.com/culture/articles/TKY201303170083.html
「新聞の活字が大きくなり、連載小説の一回の収録枚数が」
「二十年前の「朝のガスパール」連載時の三枚から今回の「聖痕」では二枚に減った」
↑新聞の文字数は20年でそんなに減っていたのですか!
【筒井康隆さん新作「聖痕」 : 本よみうり堂】
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20130618-OYT8T00578.htm?from=tw
【(書評)『聖痕』 筒井康隆〈著〉】 http://t.asahi.com/bqen
物産日記
『聖痕』(筒井康隆作)、萎えゆく世の中に生きるヒント
http://www.takasaki-kankoukyoukai.or.jp/products/blog/2013/03/post-337.html
半哲学的談笑 筒井康隆『聖痕』完結
http://blogs.yahoo.co.jp/jinne_lou/63559428.html
「ゾラ的実験」の新聞連載小説「聖痕」 筒井康隆さん特集
http://book.asahi.com/special/tsutsuiyasutaka.html
漂流―本から本へ ■膨大な読書量が広げた精神世界
http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2011071704850.html
ブクログ http://booklog.jp/item/1/4103145307
読書メーター http://book.akahoshitakuya.com/b/4103145307
■[日々の冒険]伊坂浩太郎「ガソリン生活」自家用車と家族の物語
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20121213/p1
■[名作文学]川上弘美『七夜物語』残っている謎
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20110507/p1
wikipedia:聖痕
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