『パリの怪盗』 マッカレー原作 朝島靖之助・訳 白井哲・絵
(偕成社版 少年少女 世界の名作29)
昭和47年 重版
(あらすじ)
黒い星!それはパリを騒がす天下の大怪盗。
影のごとく現れ、煙のごとく消え去る怪盗。
決して殺人はしないが、蛇のように悪賢い知恵を働かせ、宝石と金庫破りを専門にし、黒い星の印を残してゆく……。
名探偵の呼び名高いバベックは、私的なパーティーで、自分なら黒い星を逮捕してみせる、と自慢する。
それを知った黒い星、笑い物にしてやる、とバベック探偵に挑戦状を叩き付ける。、
ここにバベック探偵チームと黒星団との追いつ追われつの知恵比べが始まった!
パリに出没する紳士怪盗といえば、怪盗ルパンかと思うのですが、本作品では“黒い星”が登場します。
こちらもなかなか愉快な人物であります。
著者はアメリカ人ジョンストン・マッカレーですが、なぜかパリを舞台とした物語。
怪盗ファントマは『ルパン三世』にゲスト出演しましたが、マッカレーが創作したブラック・スターや地下鉄サムはどうでしょうか?
忘れられてしまうには惜しい逸材なので、再評価が望まれます。
紳士怪盗・黒い星に対するは、名探偵バベックとその少年助手・マックス少年、そして出世が遅れた老ライリイ刑事のトリオ。
バベック探偵&マックス少年のコンビは、明智小五郎&小林少年のコンビを思わせます。
しかしこのマックス少年、ボクシングが得意で黒い星を殴りまくるし、車は運転するし、拳銃はぶっ放すし、大人顔負けであります。
「この物語について」で訳者の朝島靖之助さんは書いています。
「(原作を)現代むきに、そして少年少女むきに、おもしろく書きあらためたものです。」
もしかしてマックス少年は、原作では大人だったのでしょうか?
探偵トリオと黒星団の丁々発止の知恵比べがコミカルで面白い。
(『地下鉄サム』的な)
紳士怪盗・黒い星は知恵は使えど殺人は行わないので、『怪盗ファントマ』のような残虐なシーンはなく安心して読めます。
■[名作文学]怪盗ファントマ(ネタばらし注意!)
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20120524/p1
探偵トリオはどことなく間が抜けていて、冒頭で黒い星を捕虜にするくだりは鮮やかなんですが、それ以降は何だか精彩を欠き、黒い星の引き立て役となった感があります。
読者が読んでも「これは伏線だな」と気付くような失敗を簡単にやらかすようなことも何度か。
黒い星は余裕なもので、手口を簡単に説明し過ぎます。
そんなに簡単にネタばらししては次に同じ手口を使えないじゃないかと思うのですが、次は別の方法を使うという自信があるのでしょう。
そんな調子で黒い星の活躍がすごくて、もう
「ハハハバベック君、残念だったな、さらばじゃ〜」
と逃走して、
「続編に続く」でいいんじゃないか、と思ってたら、急転直下、あっけなく逮捕されてしまいます。
しかしこの結末、『名探偵登場』で大富豪トウェイン氏が怒り出しそうな展開ではないでしょうか?
少年少女・ネタバレsalono(ネタバレ注意!)
『名探偵登場』ネタバレ感想会
https://sfklubo.blog.jp/archives/12884333.html
なお、ルパン、怪盗ファントマ、黒い星の初出を調べると、以下のようになっています。
アルセーヌ・ルパン 1905年初登場
ファントマ 1911年初登場
黒い星 1916年初登場
意外と時代が重なってるんですねえ。
シャーロック・ホームズがストランド・マガジンに連載中、競合誌に色々とライバルが登場したことは有名です。創元推理文庫やハヤカワ文庫には「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」シリーズがあります。
ファントマや黒い星はアルセーヌ・ルパンのライヴァルたち、といったところでしょうか。
さて、怪盗黒い星、殺人を犯さない紳士怪盗ということに誇りを持っています。
そのこだわりが伺えるバベック探偵との会話を紹介します。
「ははは、殺人さえしなければ善良な紳士だと思いこんでいるところが狂っている。世間をさわがせ、他人が汗を流してつくった富をうばうのがなにが紳士か!」
「だまりたまえ!おれの誇りをきずつけると、あとでひどい目にあうぞ。しからばきくがバベック君、こんにちの上流紳士とは、そもそもなんだね?善良かね、心がきれいかね、正しいことばかりして生きているかね?」
黒い星の目が、なにか恨みをいだくもののようにもえあがった……。
「金持ちと権力者は、その力を利用して、まずしい者をさんざんこきつかっている。そして自分たちだけが楽しいくらしをしているではないか。うわべは紳士でも、心は泥棒とおなじことだ。おれはそういう、にせ紳士どもにあっといわせてやるのだ。金持ちがためこんだ大金庫や、虚栄のかたまりの宝石をうばって、紳士怪盗の怒りをしめしてやるのだ!」
別の部分では、こんなことも言っています。
「ぼくは社会の偽善と不正に、怪盗として抗議しているのだ。」
なるほど黒い星は鼠小僧のような義賊というわけですか。確かに一理ありますね。
法人税を下げる代わりに、その税収不足分を消費税を上げることで一般庶民に肩代わりさせようとしている最近の大資本家を見ると、黒い星の言う通りですね。
消費税増税は、一般庶民から生活費を取り上げる強盗行為なのではないでしょうか。
政治家や大企業が合法的に一般庶民から生活費を巻き上げる現代。
すさまじい時代になったものです。
そう考えると、本書が発行された頃の時代はいい時代だったのではないでしょうか。(原書ではなく本翻訳版が発行されていた頃。累進課税性・再分配機能が機能していて日本人が総中流だと言われていた頃。)
もうあのような時代は来ないのでしょうか。
wikipedia:ジョンストン・マッカレー
偕成社版 少年少女 世界の名作 全100巻 リスト
http://nazede.gozaru.jp/kaiseisha.html
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20040602/p1
快傑ゾロ倶楽部 http://nazede.gozaru.jp/zorro.html
(↑HPにログインできなくなり、更新できなくなってしまいました。)
** vanish into the blue **
『快傑ゾロ』とその周辺
http://vit-blue-02.jugem.jp/?cid=12
http://vit-blue-02.jugem.jp/?eid=63
Midori's Room
ジョンストン・マッカレー
http://www13.ocn.ne.jp/~m-room/mcculley.html
主要著作リスト
http://www13.ocn.ne.jp/~m-room/mcculley-works.html
翻訳作品集成
ジョンストン・マッカレー Johnston McCulley
http://homepage1.nifty.com/ta/sfm/mcculley.htm
ミステリー・推理小説データベース Aga-Search
ジョンストン・マッカレー
http://www.aga-search.com/256johnstonmcculley.html
海外ミステリ総合データベース MISDAS ミスダス
翻訳ミステリ総目録 1916-2005 作家別リスト 書評情報 マッカレイ、ジョンストン
http://www.ne.jp/asahi/mystery/data/WD/SH/EW_MA09.html#1906
芦辺拓先生の、『名探偵バベック 巴里の怪盗』に関する一連のツイート
https://twitter.com/ashibetaku/statuses/222594115685191681
https://twitter.com/ashibetaku/statuses/222594249420570624
https://twitter.com/ashibetaku/status/222594766213361664
https://twitter.com/ashibetaku/statuses/222600319568318464
https://twitter.com/ashibetaku/statuses/222602084292362240
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