死ぬほど愛した…―トラベル・ミステリー (集英社文庫―コバルト・シリーズ)
以前、『超特急燕号誘拐事件』を読みました。
SF KidなWeblog
超特急燕号誘拐事件
http://sfkid.seesaa.net/article/413784201.html
少年少女・ネタバレ談話室(ネタばらし注意!)
超特急燕号誘拐事件 ネタバレ感想会
http://sfclub.sblo.jp/article/113444408.html
『超特急燕号誘拐事件』についてネットで調べていると、亀谷ユーカリおばさんが、牧薩次&可能キリコと共演した作品があって、しかも超特急燕号が舞台となっていると知り、これは読まねばならんと思ったのです。
しかしまさか私がコバルト文庫を読む日が来るとは思いませんでした。
大学時代ブックオフでアルバイトをしていた時は、コバルト文庫は二束三文の代名詞で、買い取り価格も値付けも他の本より安めだったことを思い出しました。
辻先生もコバルトから出されていたのですか。
しかし巻末の目録を見れば、川端康成や伊藤左千夫や平岩弓枝などの作品も収録されていて、意外としっかりしているという印象を受けました。
本書の内容も意外としっかりしていて、コバルト文庫だと軽く見ていては足元をすくわれます。
これは、たまたま本書が辻作品だからでしょうか。
それとも、意外とコバルト文庫全体がしっかりしているのでしょうか。
以前、東大出身の精神医学者の和田秀樹が受験勉強のハウツー書を出され、
「少女マンガは文学的に優れていて受験にも役に立つはずだから、マンガを読むのなら少女マンガを読め!灘校生にも少女マンガファンは多い」
と書かれていたのを思い出しました。
女子中高生向けマンガや小説は意外と高度?馬鹿にしてると足元すくわれる?
wikipedia:コバルト文庫
閑話休題
プロローグはモノローグ
で、ユーカリさんが自己紹介されています。
亀谷に「かめがい」とふりがなが打たれています。
光文社・超特急燕号誘拐事件版では8ページに「かめたに」とふりがなが付けられています。長い年月の間に読み方が変わったのでしょうか。
結城「竜己」の思い出についても触れられています。光文社版では「龍巳」と表記されていました。大人向け書籍とヤングアダルト向け書籍では使用漢字が違うのでしょうか。
結城竜己の国籍については触れられていません。
ユーカリさん 吝嗇の人
ユーカリおばさんの茶飲み友達の設楽とよさんが登場。
実の娘が家族を連れて出戻って来て家族問題になるという、コバルト文庫らしくないヘビーな展開。
相手の嘘に気付いても知らないふりをするという社交上のマナーというのも知りました。
太平洋戦争中におとよさんの息子が空襲で亡くなったという、もう一つヘビーな問題もテーマになっています。
大衆文芸1983年発表の作品といいます。
この頃は、まだ、戦争体験者も多く存命しておられて、戦争の記憶もしっかりと継承されていたのでしょうね。
死ぬほど愛した…
ユーカリおばさんの女学校時代の友人の米倉さかえさんが登場。
さかえさんは萩で旅館を営業しており、そこにくるみ(まだ結婚前なので綾川姓です)と三津木新哉が押しかけて大騒動を解決する。
旅館の関係者もキャラが立っています。
遠くで死にたい
ユーカリおばさんの好敵手とも言えるおばあさん・阿岐八百子さんが登場。
「よくやってくださいましたね……生きてるうちに、お逢いしたかったと思いますよ」
とユーカリおばさんも認めています。
くるみの短大時代の先輩鹿沼鮎子も登場。
福来友吉記念館もちょい役ならぬちょい舞台として登場。お話にはほとんど関わりないのが勿体無い。
福来友吉に関心があるとは、八百子さんも気が若い。この作品だけの登場とは勿体無いくらいです。
北に恋して
こちらは三津木新哉の東西大学時代の後輩が登場。
新哉&くるみコンビが、大学の旅行研究会の男女2組の間に起こった事件に巻き込まれる。
机上の空論のようなトリックで、現実にはどうだろうという感じ。
くるみと新島兎祢子の告白を交互に配して、記述の面で工夫されています。
しかし、前の「遠くで死にたい」の鮎子さんもそうですが、その後の人生がどうなるかは、分からないんですね。結局破局するとか、ひどい目にあわされることもありうるんですね。
だから単純にハッピーエンドとは思えないんですね。
エピローグもモノローグ
で、ユーカリおばさんは、若妻時代に燕号で遭遇した不思議な事件について触れています。
「ものはためし、フロク代わりにおつけしたドキュメント・フィクションを、読んでやってくださいな。」
特急『燕』驀進す
若き日のユーカリさんに牧薩次に可能キリコ、那珂一兵、さらには徳川夢声に石井漠、少年時代の辻真先にその父親の辻寛一まで登場するという超豪華特別編。
(辻寛一は政治家だったようです。 wikipedia:辻寛一)
旅行雑誌『旅』に牧薩次が執筆した「特急『燕』の架空乗車記」という設定。*1
これだけのキャラが登場してこのページ数では勿体無い。顔見せ程度の小事件で終わりました。
辻真先先生は特急燕号がお気に入りのようで、後に長編『超特急燕号誘拐事件』を執筆されました。
もしこの時、この『特急『燕』驀進す』の設定を長編にリメイクしていれば、辻真先版『マリン・エクスプレス』が見られたかも、と妄想してみたり。
『超特急燕号誘拐事件』での亀谷ユーカリさん
昭和10年、3月はじめ
3年前に結城龍巳を亡くしている
少し前、見合いをした。まだ結婚前。
2001年5月 光文社文庫書下ろし
『特急『燕』驀進す』での亀谷ユーカリさん
昭和15年、春
30そこそこの若妻時代
沼津で乗車
京都で下車(家で娘が待っている)
『旅』1983年4月号掲載
ついでに、『特急『燕』驀進す』での那珂一兵
詰襟の中学生
東京駅で乗車
神戸から船で渡米し、伯父を訪ねる予定
エピローグもモノローグ 2
で、ユーカリおばさんから味のあるメッセージがありましたので引用して終わりたいと思います。
「かりにあなたにチャンスがなくて、生まれた町から一歩も外へ出ないとしても……
あなたはやっぱり旅をしている。」
「人間だれもが時間の旅を重ねているのよ。」
「だからあなたは、こうやって私の本を読んでいるあなたこそ、謎いっぱいの、歩くトラベルミステリーなんですよ。」
「またお逢いしましょうね、あなた。」
死ぬほど愛した…―トラベル・ミステリー (集英社文庫―コバルト・シリーズ)
wikipedia:辻真先
辻真先ミステリワールド総合案内所(建設中)
超特急燕号誘拐事件
http://www31.atwiki.jp/h-yamato3/pages/58.html
亀谷ユーカリ
http://www31.atwiki.jp/h-yamato3/pages/39.html
那珂一兵
http://www31.atwiki.jp/h-yamato3/pages/57.html
Nameless here for everymore •U´Å`U
死ぬほど愛した…
http://d.hatena.ne.jp/gkmond/20050423/p1
鴨がネギしょってやってきた 辻真先 死ぬほど愛した…
http://blog.livedoor.jp/negisikamo/archives/54607408.html
小説フォーラム 死ぬほど愛した・・・
http://fnovel.4rm.jp/modules/d3forum/index.php?topic_id=126
ミステリータウン 死ぬほど愛した…
http://www.f-store.net/mystery/town-search.asp?action=%8F%91%96%BC&string=%8E%80%82%CA%82%D9%82%C7%88%A4%82%B5%82%BD%81c&key=9140
辻真先「死ぬほど愛した…」読了 麻里邑圭人 @mysteryEQ
http://favolog.org/mysteryEQ/date-140515
ミステリ書誌の吹きだまり 辻真先 作品書誌
http://www7b.biglobe.ne.jp/~tdk_tdk/tsuji.html
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*1:そういえば、『急行エトロフ殺人事件』も、薩次が執筆したという設定でしたね。