OLDIES 三丁目のブログ

森羅万象・魑魅魍魎を楽しみ・考える不定期連載ウェブログです。本日ものんびり開店休業中。

まぼろしのルパン帝国 ファーストルパン愛に溢れた一冊

 ルパン三世―まぼろしのルパン帝国 (ザ・ファーストTVシリーズ) ルパン三世―まぼろしのルパン帝国 (ザ・ファーストTVシリーズ) 

 昨年春、「ルパン三世DVDコレクション」でファーストルパンを見てブログに感想を書いていました。
 途中から『まぼろしのルパン帝国』という本の該当する部分を読むようになったのですが、この本はすごい!ファーストルパン愛に溢れた一冊です。
 著者は未発表の脚本とコンテも所持されているようで、放送された完成版と修正前のオリジナル版を比較しながら細かく深く分析していきます。
 新解釈や深読みてんこ盛りで、物語の解釈とはこうやるものだとお手本にできそうです。
 また、衒学的な引用・言及・薀蓄も多く、情報量と内容の密度が濃い濃い。
 活字が細かくページに字が詰まっていることもあいまって、なかなかページが進まない。
 後日、何かの研究発表をする時のお手本にしようと思って、本書の論法をメモしておきました。
 しかし「(ザ・ファーストTVシリーズ)」って、何よ!?

(以下、個人的メモ。ネタバレ注意!!)


第6話 雨の午後はヤバイゼ
[めまいの中の泥棒探偵]カマイタチ殺人事件の真犯人は、いったい誰だったのか?
 ↑以下、原書ではサブタイトルは3行表記ですが、当ブログでは1行で表記します。
 この章は見事。よく考えると謎の多い第6話をうまく解釈しています。
 というか、マニアの皆様は皆そこまで補完していたのでしょうか?
 ここまで思い至らないとマニアとは言えない、ということなのでしょうか?
 私の場合、説明不足の映画などは
「ここが分かりましぇん……」
とブログに書くことが多いのですが、それは読みが甘い証拠だ。
 今後、映画やアニメの感想文を書く上で、本項目を読んで受けた衝撃は忘れないよう自戒。

第10話 ニセ札つくりを狙え!
ニセ札を巡る三つの寓話 どうしてルパンは、盗むことを忘れて殴り合いに熱中したか?
 
 最初に、アニメ完成版のストーリーと、その脚本『3時に別れの鐘が鳴る』のストーリーが紹介されています。
 後者は大隅正秋による脚本で、前者は、それに高畑勲宮崎駿の修正が入ったもの。
 結構大きく違っています。大隅版では、ウクライナの銀ギツネ(シルバー夫人)とウクライナ男爵は親子であり、男爵にはボルボという弟がいることになっています。
 2つの脚本を比べてみると、確かに著者が指摘しているように、前者は“子どもたちにわかる”よう修正されたルパンであり、後者は“イキで大人指向”のルパンです。

「このどちらが<本物>で、どちらが<ニセ札>なのだろう。」

と、問題提起されています。

「これは凄い! 本物そっくりだ……いや、本物以上かもしれん。これはもう芸術だ。最高の芸術作品だ!」
というルパンの台詞が挿入されると意味深です。

 ニセ札づくりを大隅版と高畑&宮崎版に絡めて論じるなんて、すごい発想だ、研究論文とはこの発想が大切なのだと感服。
  
 ところで著者は、大隅版と高畑&宮崎版のどちらに軍配を上げているのか、持って回った書き方なので、一見したところよく分かりません。
 私としては、どちらにもいい面があって甲乙つけ難い、どちらも選んで見比べたい、と結論付けたいと思います。

第11話 7番目の橋が落ちるとき
現金に体を張るな!なぜ人質は不二子ではなく、美少女でなければならないのか?
  
 前話に続いて、今回も、アニメ版と脚本版を紹介して比較されています。
 何と脚本では、リーサの代わりに不二子が人質になる設定でした。
 そしてリーサはボルボの養子であり協力者であった、という仮説が大胆に展開されています。
 そして7番目の橋をキーワードにアニメ版と脚本版を比較し、結論付けられています。
 こんな風に解釈することができるのだ、と驚きの論文です。

第12話 誰が最後に笑ったか
「勝ったのは俺達じゃない」なぜルパンは頭脳を使わず、金と暴力だけに頼ったか?
  
 この12話の演出のクレジットは大隅正秋となっていますが、やはり高畑勲宮崎駿による修正がされているようです。
 この12話が放送された日から41日後、浅間山荘事件が発生。
 ハヤテ陣営と連合赤軍の類似点を指摘しながら、アニメ版と脚本版を比較して論じられています。
 すごく深い読み方ですね。こんな論考を読んでしまうと、今後軽々しく文章が書けなくなってしまいそうです。

第13話 タイムマシンに気をつけろ!
[ルパンの結婚葬送曲]ルパンはどうして、未来から来たターミネーターを殺さなかったか?

ターミネーター』などの先行作品を例に挙げ、タイムスリップもののタイムパラドックスについて論じる。
 原作や初期脚本では魔毛は殺されることになっていたが、完成したアニメ版では殺されず、逃げています。
 これには深い意味があったんだ!!……と指摘。

第14話 エメラルドの秘密
[仮面舞踏会は不死身猫と]銭型警部は、どうして目の前の不二子に気付かなかったのか?

峰不二子」をアナグラムすると、「フジミ・ネコ」。
 そこからエドガー・アラン・ポーの『黒猫』や江戸川乱歩の「本格推理小説の三原則」を持ち出して、本話を“本格推理”として論じ、峰不二子について論じる。
“作品論”とはこんな風にするのだというお手本。

第15話 ルパンを捕まえてヨーロッパへ行こう
[銭型に捕まって黄金像をいただこう!]ルパンは、どうして“バカ銭”に二度目の逮捕を許したか?

 権力やゲームという観点から、ルパンの行動を分析。

第16話 宝石横取り作戦
[空翔ぶ<新家族>]新妻不二子は、どうやって亭主ルパンの尻を叩いたのか?

 第14話の後、ルパンと不二子が結婚したという仮定で、不二子を、現実を直視し始めて亭主に不満を持ち始めた新妻という観点から論を進める。
 修正前の脚本では、ルパン1世を知るという骸骨男が登場しているという指摘も。
 そして最後は<家>と<家族>論につながるという、大胆な論考。

第17話 罠にかかったルパン
[<新しい女>、百年の孤立]なぜ不二子は、髪を切り、オートバイを捨てたのか?

 映画の歴史や歴史的俳優・女優に絡めながらルパンを、不二子を語る!
 大隅不二子と高畑&宮崎不二子の違いは?

第18話 美人コンテストをマークせよ
[あるルパンおたくの自己言及]ルパン製箱詰め少女に、青年はいかに反応したか?

 本書担当の編集者?が本話のビデオを見ながら著者に挑戦して語る!という形式?
 色々文体に工夫していることは分かりますが、読みにくいです。

第19話 どっちが勝つか三代目!
[初代ルパンの華麗なる恋と冒険]なぜルパンは、宿命の対決にヤル気を失くしたか?

 モーリス・ルブランのアルセーヌ・ルパンシリーズについて色々と言及。

第20話 ニセルパンを捕えろ!
[高貴にして卑俗なる日本的ヒーロー]“盗術書”第三十六条は、ドロボー村に何を伝えたか?

 貴種流離譚やら日本やフランスの小説の歴史などに触れながらルパン三世のヒーロー性について論じる。

第21話 ジャジャ馬娘を助けだせ!
[見いだされたクラリスの指環]“宮崎ルパン”のヒロインは、いかにライオン大帝と戦ったか?

 牧田リエと小山田真希とクラリスとリーサ・四人の少女の連環。
 黒澤明アメリカ映画などを引用し、帝国主義への挑戦まで。
 引用の幅が広い。ライオンキング著作権問題など、取り上げただけで結論に至らない話題も。
 
第22話 先手必勝コンピューター作戦!
[電脳迷宮のランナウェイ]ルパンは、いかにして電気洗濯機に敗北したか?

 コンピュータの発展に絡めて。

第23話 黄金の大勝負!
[あばよ、ニッポン!]ルパンはなぜ、<ルパン帝国>を自らの手で破壊したのか?

 コミック正編最終回や脚本版と比較しながら、ルパン帝国の破壊について考察。

出版社ページ  http://filmart.co.jp/books/manga_anime/2006-9-12tue-120/


アブソリュート・エゴ・レビュー
 ルパン三世 First TV Series (その1)
  http://blog.goo.ne.jp/ego_dance/e/50b7bf27c38d1996ffa41b49e0bd1a55
 ルパン三世 First TV Series (その2)
  http://blog.goo.ne.jp/ego_dance/e/b56857fef121d42a0c947a1480b19bdb


ブクログ http://booklog.jp/item/1/4845994356
読書ログ http://www.dokusho-log.com/b/4845994356/
読書メーター http://bookmeter.com/b/4845994356


ルパン三世ガンダム天才バカボンもファーストが一番!
 講談社 ルパン三世DVDコレクション の感想
1 http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150311/p1
 2 http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150319/p1
  3 http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150409/p1
4 http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150424/p1
 5 http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150509/p1
  6 http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150528/p1

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