学研小学生文庫高学年版の一冊。
海外の20の短編小説が収録されています。
巻末解説で西本鶏介さんが書かれています。
「いまでこそ海外文学の児童書はさかんに出ていますが、そのころ、外国の新しい作品やおとなの作品を、子ども向きに訳出しようという人はまれで、吉田甲子太郎はその分野での数少ない開拓者のひとりといえましょう」
「甲子太郎は、「わたしは原作をそのまま翻訳せず、かなり自由な気持ちで日本文に書きあらためた」とのべているように、純粋の翻訳とはいえず、むしろ翻案、再話といったほうがあたっているかもしれません。しかし、満足な外国作品の紹介が少なかった当時、原作に忠実である前にまず日本の少年たちが理解しやすく、そしておもしろがる形で提供しようとしたかれの努力は、大いにみとめるべきものと思います」
また、本書に関しても
「作者名の下に「訳著」という見なれぬことばがついていますが、それはこの作品が原作の忠実な訳ではなくて、やはり翻案に近いものだということをあらわしたものです。平明できびきびした文体、感動的な場面の構成などは、翻案というよりも、原作に素材を借りた創作といってもよいほどです」
こういった子ども向け翻訳に訳者が手を加えることは、私の子ども時代にはよくあったようです。
よく知られているのは山中峯太郎のシャーロック・ホームズや南洋一郎のアルセーヌ・ルパンシリーズです。
そういった「超訳」は吉田甲子太郎から始まったのでしょうか。
その後、子ども向け翻訳でも「完訳」でないといけない、という意見が多数派となり、山中版ホームズ全集は完訳版全集に置き換わりました(最近は再評価されているようです)。
私は、完訳はもちろん必要ですが、子ども向けの翻案はどんどんやった方がいい、と思います。
私は子ども時代からマニアックな読書家だったので、子ども向け名作文学でも翻訳者によって少し筋が違うのを読み比べるのが好きでした。
例えば『巌窟王』や『怪談』ではこの翻訳は文章が硬いけどこっちの翻訳はこなれていて良いとか、『宝島』では原作通りではなくてビリー・ボーンズが宝の地図を盗んで逃げるところから始まるバージョンを見つけて「これはすごい」と喜んだりしたものでした(『宝島』は早い段階で福音館書店古典童話シリーズで完訳版を読んでいた)。
そして大きくなってから改めて完訳版を読むことを楽しみとしていました。
同じ古典落語を演じても、一字一句同じことを話しているわけではありません。やはり時代に応じて語り方に変化があるはずです。いっそのこと子ども向け翻訳も古典落語を演じるのと同じように、「訳者」と言わずに「演者」と言ったらどうでしょうか。
ということで吉田甲子太郎の翻訳アンソロジーを組み込むとは、学研小学生文庫高学年版は渋いですね。
特に後半の第二集は本当に渋い。
『シャーロック・ホームズ』やドリトル先生やジュール・ベルヌを入れた第一集はタイトルで子ども達にアピールする力が強そうな作品が並んでいるのですが、第二集は戦後民主主義の教養主義溢れた本書や、日本の山里を舞台にした渋い作品やら小学生が生物研究する作品やら埋もれた海外のミステリー小説やら壷井栄の短編集やら、本当に通向きで渋いラインナップです。私も一瞬、派手なラインナップの第一集を選ぼうかと思ったのですが、書店で買えそうにない珍しい本が揃った第二集を選びました。実は近所に住む同級生のM君家にも第二集がありました。読書好きというお姉さんの本やと思いました。ううむ、通ですなあ。第一集ではなくて第二集を選んだ子ども達は読書好きで渋いと誇っていいと思います。
【以下、印象に残った作品のコメントです】
空に浮かぶ騎士 アムブロース・ビアズ作『空の騎士』(アメリカ)より
小学校の国語の教科書に載っていた。唐突過ぎてよく分からない終わり方なのですが、戦争で親と子が敵になり殺し合いすることの悲劇を描いたということなのでしょうか。私は鈍い所があるので、唐突な結末に置いていかれることがよくあります。同じように教科書に載っていたレフ・トルストイの『とびこめ』の結末もよく分かりませんでした。
押せ、押せ、ポンプを! サミュエル・F.バチェルダ『英雄』(アメリカ)より
裏方に回ってパイプオルガンのポンプを押し続けた少年の悲劇。こんなことよくありそう。しかし、こういう人がいないと社会が回らないという一面もあります。果たして自分はできるか。そしてそういう存在に気付けるか。
独立祭の思い出 アルバート・W.トールマン『綱わたり』より
独立祭にやってきた軽業興行の綱渡りを手伝った少年の恐ろしい体験。しかしこの軽業師も少年もよく冷静に慎重に切り抜けたもんだ。大道芸は失敗すると命取りになるから恐ろしいものです。
最後のひと葉 オー=ヘンリ(アメリカ)
いい話。壁に描いた葉が現実の葉のように見えたというのだから、バーマンさんの絵がうまかったということなんだろうか。壁に張り付くツタの葉というのがミソなんだろうか。
ぞうきんと卵 クレア・H.ビショップ(アメリカ)
バーナビとリンゴ マリオン・オーバマイヤ(アメリカ)
この2作品は子どもが知恵を出してお金を稼ぐ話。アメリカンドリームの国・資本主義の国アメリカでは子ども時代からこう考え・行動しているんですね。
特に前者は友人が協力し合っているから会社組織のシミュレーションだ。
一マイル競走 レスリー・M.カーク)(アメリカ)
陸上競技の本場・狩猟民族の本能。こんな人間がいるからアメリカは世界最強でいられるのです。根性なしであきらめが早い私もちょっとは見習わんと。
退校はされたけれど アルヴァ・ミルトン・カー『カーブの下で』(アメリカ)より
エジソンのような発明少年の大活躍。このような少年がいたからこそアメリカは世界最強でいられたのです。
三十秒間のできごと レイ・スタンナード・ベイカー『ポッツはいかにして夜の急行列車を救ったか』(アメリカ)より
列車の巻き込み事故を防ぐために機関手がとった行動。
こういう咄嗟の判断が大事なのです。これだからこそアメリカは世界最強でいられたのです。
逃げた大砲 ヴィクトル・ユゴー『九十三年』(フランス)の一部より
ユゴーの長編『九十三年』の一部らしい。壮絶な話。常在戦場では一瞬の気のゆるみも許されず、責任を取らされるのです。
これは社会人の仕事の現場でも言えることです。
社会に出る前にこういう話を読んでおくのも必要でしょう。
私も気が引き締まりました。
少年軍使 ロバート・H.デヴィス『ある勇敢な少年の実話』(アメリカ)
インディアンに包囲されたアメリカ開拓民の少年軍使の活躍。軍使というよりもはや「軍師」ですね。
アメリカ人は子どもでもこんな交渉ができるのです。のほほんとしていると負けてしまいます。
こんな風にアメリカ人は原住民を追い詰めていったのでしょう。
そして日本も不平等条約を結ばされてきたのでしょう。
きみならどうする フランク・R.ストックタン『君だったらどうしたであろうか』(アメリカ)より
狩猟を選ぶか写真を選ぶか。思えば狩猟は動物の命を奪うものなんですね。
それから思い違いをしていたのですが、私がこの本で読んだと思っていた作品があります。
綱渡りが好きで毎年興行に来る綱渡りを楽しみにしている子どもが綱渡り芸人から
「毎年キミが座っている位置を目印にしている」
と言われたので、つい出来心でその年は座る位置を変えて綱渡りを見物するという話。
結末を忘れていたので再読するのを楽しみにしていたのですが、本書には収録されていませんでした。
一体何という作品だったのでしょうか?
[wikipedia:吉田甲子太郎]
[wikipedia:アンブローズ・ビアス]
[wikipedia:西本鶏介]
●ブクログ https://booklog.jp/item/1/B076286CGC
●読書メーター https://bookmeter.com/books/12429790
【学研小学生文庫高学年向き 第二集】
09 メアリー・ポピンズと「自由からの逃走」
https://diletanto.hateblo.jp/entry/2021/07/07/203000
10 ドイツ版少年少女探偵団!『赤いUの秘密』
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11 イノシシ猟と少年の成長を描く【木の国少年記】鈴木しんご
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