エミリ・ブロンテ作
大和資雄&十和田操・訳 鳥居敏文・絵
金の星社ジュニア版世界の文学16
1968年1月初版 1990年8月第30刷
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【あらすじ】
冬のある日、嵐が丘に住むアーンショウさんが外出先から身寄りのない浮浪児を連れ帰って来た。少年はヒースクリフと名付けられ、大切に育てられた。ヒースクリフはアーンショウ家の二人の子どものうち、妹のキャサリンとは仲良くなったが兄のヒンドリとは犬猿の仲であった。
嵐が丘の近所にスラシクロス屋敷があり、そこに住むリントン家にも同じ世代の兄(エドガー)と妹(イザベラ)がいた。やがてキャサリンはエドガーと仲良くなり、キャサリンに裏切られたと思い込んだヒースクリフは失踪する。
3年後に立派に成長したヒースクリフが金持ちとなって戻って来る。復讐の鬼と化した彼により、アーンショウ家とリントン家の人々は運命を狂わされていくのであった……!!
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いわずと知れたかの名作です。
今回借りて来た版はジュニア版ということで、少年少女が対象の文学全集ですが、字が細かい2段組でなかなか読み応えあります。(23字×16行×2段×273頁)
しかもこのシリーズ、他に『カラマーゾフの兄弟』『アンナ・カレーニナ』などが収録されていて、大人向けの世界文学全集と言ってもいいくらいの本です。
昔の少年少女はこんな本を読んでいたんですねえ。
そして本書は、『嵐が丘』を一番最初に日本語訳された大和資雄さんの翻訳を十和田操さんが少年少女向けに書き直したもののようです。
アマゾンのレビューでは「多少言葉使いが古臭い」「習いたての英語の直訳のような文章」という批判もあります。
しかし私には非常に読みやすい味わい深い名文と感じました。
つまり、私が子どもの頃はこのような文体に親しんでいて読み慣れている文体だということで、私自身が古臭いのかもしれません。
アマゾンのレビューには古臭い言い回しの例として
「よござんす、なすった、よかんべぇ、ごわせんのじゃ」
などが挙げられています。私にはこういう言い回しがいいのです。やっぱり私が古臭いのです。
アマゾンのレビューには登場するキャラの言動に納得できないという意味の指摘もあります。
確かに登場人物の言動は第三者的に見て少々常軌を逸している面もあります。
原作の発表当時もそう思う読者が多かったようで、本作品はあまり評判良くなかったようです。
この分かりにくい人々の物語を縮約で読んでしまうと、かえって唐突で説明不足で分からなくなってしまうと思います。
いつもは縮約の良さを主張している私ですが、
こういう物語こそ、原文に近い長文による丁寧な説明と描写で読む必要があるのではないかと思いました。
とりあえず、分量の多い本書を読むことで登場人物達の言動を本当に理解したかどうかは分かりませんが、やむにやまれぬ事情で仕方なくこうなってしまったという事情は納得できたと思います。
結局、この物語の悲劇はヒースクリフの異常な性格にあると思います。
異常に根に持つ執念深さによって復讐の鬼と化した彼に対して女達は騙され、男どもは無力であり、皆が翻弄されてしまいます。
何でこのような異常な男が女性達に異常にモテるのか理解しがたいことです。
しかしキャサリンにしろイザベラにしろ、世間から孤絶した状態にあります。
同世代の他の友人が登場しないので、交友関係は狭いと思われます。
他の同世代の異性を知らない状況で、広い世界に出て金持ちになって戻って来たヒースクリフは尊敬できる憧れの存在と見えたのではないでしょうか。
それに対して男どもはだらしない。
やはり男は外に出て経験を積まないといけないのでしょう。
ところで、本作品には部屋に閉じこもったとか閉じ込めたとかいう記述があります。
年を取ってトイレが気になるようになってきた私としては、トイレはどうしたのか気になります。
各部屋にトイレがあったのでしょうか?
トイレに関する記述は一切なかったのですが、気になります。
また、ヒースクリフが3年間どこで何をして金持ちになったのかは描かれていません。
その間の経験が彼に人間的魅力を与えたのでしょう。
人間嫌いというロックウッドさんがヒースクリフに好感を持ったほどですから。
シャーロック・ホームズがモリアーティと共にライヘンバッハの滝に消えてから数年間行方不明になっていたことがありました。
その間の冒険について色々な作家が色々な作品を描いています。
ヒースクリフの3年間の成長成功譚について描いた作品は今までなかったのでしょうか?
本書の巻末には大和資雄さんの解説「エミリ・ブロンテと作品」が収録されています。
有名なブロンテ三姉妹の上に長女と次女がいたが早世し、他にブランウェルという兄がいたようです。このブランウェルさんについて大和先生は
「頼りにならない男」
「多芸多才ながらどれも物にならない」
と辛辣です。
ともかくブロンテ6兄姉妹の生涯についても興味深いドラマだと分かりました。
実は私は高校一年生の頃、『嵐が丘』を読んだことあります(中村佐喜子訳・旺文社文庫版)。
中学3年の時に発症した躁うつ病のために言動がおかしくなり、失敗に失敗を重ねてさらに精神状態が悪化してきた状態の頃で、本を読むことすらままならなくなってきた頃でした。
そのような状態でこんな複雑で暗い物語はあまり良くないはずですが、苦労しながら何とか読み切りました。精神状態が悪いと記憶力も悪くなるようで内容はすぐに忘れてしまったのですが、なぜか暗くて滅びに向かって行く物語が魅力的に感じたようで、自分もいずれはこのような滅びていく物語を描きたい、と思ったものです。
とりあえずこれが私にとって若い頃のほとんど最後の本格的な読書になり、その後はほとんどマトモな本が読めない状態が数十年に渡って長く続きました。
今回大和&十和田版を再読してみて、語り手であるロックウッドさんやエレン・ディーンさんの存在はまるっきり忘れていたことに気付きました。
青春時代の不本意な読書をやり直せたことに喜びを感じます。
そして遅まきながらこのシリーズの他の作品にも挑戦したいと思います。
●ブクログ https://booklog.jp/item/1/4323007760
●読書メーター https://bookmeter.com/books/706691
【編集後記】
私が高校一年生の時、高校の教室で『嵐が丘』を読んでいました。
すると後ろの席に座っていたM君に「貸して」と言われたので、読了後に貸してあげました。
すると、ボロボロになって帰ってきたので非常にショックを受けました。
私は本は大切に丁寧に扱うので、どれだけ本を読んでもきれいなままです。
受験テキストを何度も読んで「ボロボロになった」というフレーズがありますが、
私の場合は何度読んでもきれいなままです。
中学時代に買った国語辞書も高校時代に買った和英辞典も箱や帯が綺麗なままで存在していた
くらいです(それだけ勉強しなかったのだろうという突っ込みは無しだ)。
[wikipedia:嵐が丘]
[wikipedia:エミリー・ブロンテ]
[wikipedia:嵐が丘 (1939年の映画)]
[wikipedia:大和資雄]
Commentarius Saevus
ケイト・ブッシュの『嵐が丘』解釈にもの申す
https://saebou.hatenablog.com/entry/20091005/p1
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