驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)
東北芸術工科大学芸術学部で民俗学を研究・教育されていた六車由実さんは、准教授の地位を得た翌年、どういう事情があったのか大学を退職。
実家に戻った後、ホームヘルパー2級の資格を取得し、介護職員として働き始めます。
民俗学で各地の古老からフィールドワークしていた経験と知的好奇心から、施設の利用者から聞き書きを始め、「介護民俗学」を提唱する。
認知症状が現れている方でも過去の記憶は意外と保たれていて、現在の住人が既に忘れていたような過去が明らかになったりします。
お年寄りの過去の記憶を掘り起こす作業は、古い地層から過去の歴史を発掘していく作業を思わせます。
例えば、認知症だと思っていたおじいさんから、蛇松線という廃線となった鉄道のことや、埋もれていた歴史的事実を教わります。
また、大正10年生まれで認知症のあるお婆さんは、トイレで用を足した後、使用済みのトイレットペーパーを汚物入れに入れる。
六車さんは、かつて中国を旅行した際、かの地の水洗トイレは水が良く流れなかったのでトイレットペーパーを汚物入れに入れていたことを思い出します。
だから日本でも水洗トイレ導入当時は紙をトイレに流さなかったのではないか、その時の身体記憶ではないか、と推理します。
この件が研究会で検討され、水洗トイレの過渡期は短いはずだから、認知症の方の身体記憶として残るのだろうか、と反論が出る。
農家出身の研究者は、都市部にある農家では、糞尿を肥料とする時、紙が入っていると都合が悪いのでごみ箱に入れていた、ということを話してくれた。
後にこのお婆さんは、都市部の農家に住んでいたと分かる。
まるでミステリー小説のような謎解きで、トイレ事情の移り変わりが明らかになっていきます。
その他、戦場で生死をさまよった経験、キャリアウーマンとして活躍された経験、家族のために働いた経験など、事実は小説よりもドラマチックな語りが次々と。
やはりお年寄りは立てるべきですね。現役世代にはどのような活躍をされていたのか分かりません。
そして、自分が将来、認知症状が出て介護される立場になった時、どのようなことを語るのでしょうか。そのことを思うと、怖くなってきます。今のままでは絶対にいけない、と危機感を持ちました。
ちょっと思ったのですが、介護施設を舞台にしたミステリーなんて、できないものでしょうか。
例えば、シャーロック・ホームズとモリアーティ教授が同じ介護施設に入って仲良くやっているような。
それはともかく、介護民俗学とはいっても、明るい展望ばかりではありません。
第4章では、「回想法」との路線の違いについて記されています。
wikipedia:回想法 wikipedia:テレビ回想法
そして第5章では、あまりの忙しさに聞き書きもできなくなり、執筆もできなくなった体験について書かれています。
介護職の知人から、「ゆっくり話を聴いている暇などない」と批判されたことについても書かれています。
六車さんは、民俗学を学んだ学生が介護職に入ることをおすすめされているようです。
しかし、現在見聞する介護現場を考えると、やはり介護の現場でゆっくりと話を聴くのは大変なのではないでしょうか。
それよりも、六車さんも書かれていますが、
「介護現場が社会へと開かれていく」
方向を広めていく方が無理ないと思います。
例えば、民俗学を学ぶ学生さんがフィールドワークの一環として、地域の介護施設で聞き書きをしたり、卒業論文を書いたりするような。
介護は介護職員が行い、介護民俗学は外部の研究者が行うというような役割分担ができれば、介護職員の忙しさの軽減になるのではないかと思うのですが。
(これは現場を知らない他人による評論家的意見です。間違っていましたら申し訳ありません。)
wikipedia:六車由実
公式サイト http://muguyumi.a.la9.jp/
https://twitter.com/marronmiymiy
出版社サイト
http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=84380
『驚きの介護民俗学』刊行!! -かんかん! #kaigo
http://igs-kankan.com/article/2010/11/000128/
かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院
http://igs-kankan.com/article/2012/09/000641/
介護の世界でつかんだ民俗学の新しい可能性 六車由実(民俗研究者)
WEDGE Infinity(ウェッジ)
http://bit.ly/194kLNw
著者は語る - 週刊文春WEB
介護の現場で見出した豊饒なる語りの世界 『驚きの介護民俗学』 (六車由実 著)
http://shukan.bunshun.jp/articles/-/1169
タクシーに乗る幽霊、そして介護民俗学。の巻-雨宮処凛がゆく!-第364回 | マガジン9
http://www.magazine9.jp/article/amamiya/25411/
【じんぶんや第89講】 六車由実選「介護民俗学のつくり方」
本の「今」がわかる 紀伊國屋書店
https://www.kinokuniya.co.jp/c/20130513164229.html
wikipedia:宮本常一
博労 https://kotobank.jp/word/%E5%8D%9A%E5%8A%B4-113932
はてなキーワード 介護民俗学
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B2%F0%B8%EE%CC%B1%C2%AF%B3%D8
wikipedia:民俗学
ブクログ http://booklog.jp/item/1/4260015494
読書ログ http://www.dokusho-log.com/b/4260015494/
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