小松左京が朝日新聞に連載した子ども向きのほのぼのとしたSF童話が収録されています。
私が初めて本書を読んだ時は、近い将来に核戦争が起こって人類が滅亡するのではないかとパニック状態に陥っていた頃でした。
本書には遠い未来に人類が戦争をやめて平和になった頃を舞台とする童話が多く収録されています。核戦争の恐怖におびえていた当時の私は、本書を読んで少しでも気が楽になったものです。
「"ぬし”になった潜水艦」
は、戦争中にAI搭載の潜水艦が命令を待って待機しているうちに長い年月が経って戦争が終わっていたという話です。
本当に知らない間に戦争が終わっていればいいなあとしみじみ思いました。こういう楽観的な思考は私にはないものでした。私はむしろ悲観的というか、最悪の結果を信じてしまう「最悪思考」を持っていたのでした。だからこそ精神を病んで回復できないうちに時間切れになったわけですが。
「にげていった子」
は、幼い兄と妹がタイムスリップして現れたお母さんの弟と遭遇する話です。その子は名前を書いた防空頭巾を残して消えてしまいました。
「いちばん下の弟だわ……あなたたちのおじさんよ!」
「戦争中、弟は空襲の最中にゆくえがわからなくなったの。八つだったわ」
「あの子はまだ、二十九年前の、戦争の世界の中をさまよってるんだわ。おなかをすかし、家をやかれ空襲においまくられながら……」
核戦争や軍国主義台頭を本気で恐れている私も、戦争や軍国主義の世界をさまよっているようなものです。
或いは、精神を病むことになった中学や高校時代を未だにさまよっているのです。
一番最後の印象的な
「ちいさな星の子」
では、公園となった星に色々な星から子ども達が集まっています。その中で一人、仲間外れになっている子がいたのです。その子は家に帰ってからお母さんに慰められます。
「とても長いこと、星の中で、みにくい、おそろしいあらそいばかりしてたんだって……」
「でも、それもひいおじいさんやひいひいおじいさんのころにおわったわ」
「ひいおじいさん、ひいひいおじいさん……あなたがたが、みにくいあらそいや、おそろしいころしあいの戦争ばかりしてたために、ごらんなさい、ずっとのちのあなたがたの子孫が、宇宙にでてから、とてもはずかしいおもいをしてるんですよ」
今回読み返して驚いたのは、戦争は終わってたんですね。私の記憶の中では、この子の星では未だに戦争が続いているので仲間外れになっていたのだということになっていました。本当に私はマイナス思考で、何でも悪い方に考えてしまいます。今回読み返して戦争が終わっていたことを知ってほっとしました。
講談社文庫版には「おちていた宇宙船」も同時収録されています。
仲良しのヨッちゃん・タカユキくん・タミコちゃんが帰り道に森の中で宇宙船を発見。
トトカプテロペペポポ星のトトカプテラピピパン(あだ名はもんくウサギ)・ゴゴズズブラボロ星のグズドリダズブズ(あだ名はにこにこかいじゅうさん)・テカトキチタポト星のトコタカチトチノ(あだ名はなき虫ロボット)とつかの間の宇宙旅行をする楽しいお話です。
UFOを運転して威張っていた宇宙人達が実は……だった、というオチが面白い。こういう楽観的なユーモアは私には決定的に欠けているものです。
講談社文庫版に挿入されている挿絵やカットは久里洋二さんが描かれています。
久里洋二さんというと、岩崎書店の『超能力部隊(超人部隊)』の挿絵を描かれていた方です。
『超能力部隊』ではかなりとんがった画風でしたが、本書では和田誠さん風の落ち着いたほのぼのとした画風です。
内容に合わせているのでしょうか。
20世紀少年少女SFクラブ
【超能力部隊】ハインライン『深淵』を子ども向けに紹介!
当時の日本の児童向けSFはすごかった!!!
https://sfklubo.net/abismo/
https://sfkid.seesaa.net/article/485172423.html
講談社文庫版では、谷川俊太郎さんが7ページの解説を書かれています。
自らの詩を引用したりウェルズの『火星人襲来』を読んで熱を出した経験を話したり現代の不安定な状況とSFについて考察したりされています。
「小松さんがこの本の中で、さまざまなおもしろいストーリーのかたちをかりて表現していることの奥には、人間という地球の住民にたいする深い愛情がかくされている。地球をほんの少しでも住みよい、いい星にしたいという願いが、小松さんにこれらの物語を書かせたのだ」
そして小松さんと同世代の自分にも同じような願いがある、と書かれています。
谷川俊太郎さんの小松左京評、なかなか貴重ではないでしょうか。
現在、『宇宙人のしゅくだい』は講談社青い鳥文庫に入っていてロングセラーを続けているようです。
しかしこちらの講談社文庫版も『おちていた宇宙船』が同時収録されていたり谷川俊太郎さんの解説が付いていたりと、なかなか貴重ではないでしょうか。
『宇宙人のしゅくだい』はこの他にも「少年少女講談社文庫」版があるようで、こちらはウノカマキリさんが挿絵を描かれているようです。こちらも見てみたい気がします。
本書は私が中学生の頃、講談社文庫がリニューアルしてカラフルな背表紙になって書店で目立っていた時に発見して懐かしくなって購入したものです。
実はそれ以前に妹が講談社青い鳥文庫版を家の中に置いていたのを本好きの私が発見して面白そうだと思って読んだのが最初です。
妹の講談社青い鳥文庫版を読んでいる時に、何だか読んだことあると気付きました。
小学1~2年生だった頃、冬の行事の「学習発表会」の時、当時一番仲が良かったY君が紙芝居をやりたいと言って、Y君の持ってきた本から「六本足の子犬」をやることにしていたのですが、その後「宇宙のはてで」に変更し、結局バージニア・リー・バートンの「ちいさいおうち」に落ち着いたのです。それで結局当日はY君が風邪を引いて休んだために私が一人で紙芝居をやったのです。
この時Y君が当初の紙芝居の案に挙げていた二作品が本書に収録されていたものでした。
しかし小松左京の子ども向けSFや「ちいさいおうち」を読んでいたY君はなかなかセンスがいいですね。彼は谷川俊太郎の絵本なんかも読んでいました。彼の両親はなかなかの文化的センスを持っていたので、選ぶ本もセンスがあったのでしょう。
私も幼いころから読書好きで、親から色々と本を買ってもらいました。しかし私の親は自分ではほとんど本を読まない非読書家だったので、小松左京だとか谷川俊太郎だとか「ちいさいおうち」といったハイカラな作品を買ってくれませんでした。買ってくれたのは日本や外国の古典的な名作文学を子ども向けに翻訳したもの、つまり、一般的に子どもの教育に良いと思われるクソ真面目な御本ばかりでした。確かにそのおかげで私は古典名作文学が好きになったのですが、少々堅苦しくて時代遅れでさばけていなくて柔軟性に欠ける性格に育ちました。まあ絶対にモテそうにないですね。
その後何を思ったか父親からいつもとは見慣れないタイプの本を誕生日のプレゼントとしてもらいました。
SFジュヴナイルというジャンルのようでした。
それをきっかけにSFというジャンルを知り、読書範囲が広がることになりました。しかし少々遅きに失した感があります。
20世紀少年少女SFクラブ
五万年後の夏休み 荒巻義雄
https://sfclub.sakura.ne.jp/sf22.htm
結局私は思春期の荒波を乗り越えることができませんでした。
余りにも柔軟性に欠け、人との距離の取り方を知らず、人間関係の機微を知らず、次々と発生する対人関係問題や人生の選択の誤りの結果と後悔に対処することができず、ついに精神を病み、その後回復することができなかった。ついに私は郷土の出世頭ならぬ没落頭となったのです。
万年週末占い研究青年の覚え書き
私にも霊が憑いていたのだろうか 算命学怪談 占い師の怖い話
https://iching.seesaa.net/article/480705770.html
●ブクログ
https://booklog.jp/item/1/4061470744
https://booklog.jp/item/1/4061472860
●読書メーター
https://bookmeter.com/books/379120
https://bookmeter.com/books/222460
[wikipedia:小松左京]
[wikipedia:久里洋二]
[wikipedia:ウノ・カマキリ]
20世紀少年少女SFクラブ
見えないものの影 小松左京
本書を読む者は今後の人生がもっと楽しくなる!
「いつかは俺もSFジュヴナイルの主人公だ!」症候群なんだよ~~~っ!
http://sfclub.sakura.ne.jp/sf10.html
https://sfkid.seesaa.net/article/447786258.html
SF KidなWeblog
小松左京『空中都市008』
https://sfkid.seesaa.net/article/464741077.html
エスパイ映画版 私は傑作だと思います
https://sfkid.seesaa.net/article/402082260.html
未来力養成教室 私には来なかった未来
https://sfkid.seesaa.net/article/451477090.html
『光る君へ』の感想を書いています
週刊平安春秋
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kindleの読み上げ機能 4倍速以上があればいいと思いますか
https://blog.with2.net/vote/v/?id=243879
地球の温暖化を実感しますか?(2024年5月〜7月調査)
https://blog.with2.net/votes/item/244765
黒い色以外のパソコンを使いたいと思いますか?
https://blog.with2.net/vote/v/?id=233333
あなたは速読ができますか?
https://blog.with2.net/vote/v/?id=231449
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