冒頭、寺田屋の坂本龍馬を伏見奉行所の捕り方が襲撃!手引きしたのは滝本捨助(中村獅童)だった!
よく、成功哲学の本やビジネス自己啓発の本などで、ギブ&テイクだとか、ギブ&ギブ&テイクだとか言われるが、捨助に関しては、テイク&テイク&テイクのタイプではないか。感謝の心が少なく、すぐに裏切るタイプである。
成功哲学の本では、こういうタイプは成功できない、とよく書かれているが、実際はどうだろう。
味方にしても頼りにならず、敵にすると怖い奴。しかし意外と憎めない性格である。
このドラマでは、意外と生き延びていくのではないだろうか。
オープニング後、悪夢にうなされる斎藤一(オダギリジョー)。松原忠司(甲本雅裕)、葛山武八郎(平畠啓史)ら、かつて手にかけてきた連中の最期が夢に出てくるのである。意外と気にする性格のようである。(⇒⇒)
幕府に反抗的な長州藩を説得するため、幕府重臣とともに長州に向かう近藤勇(香取慎吾)。
近藤は、伊東甲子太郎(谷原章介)と武田観柳斎(八嶋智人)をお供に指名。
伊東は喜んでお供するが、なぜか武田は断る。実は武田は、西洋軍学の翻訳書を購入するつもりだったのである。
「伊東さんが新選組に加わって私は本当に助かっています。時局に通じ豊かな見識を持って判断できる人物がどうしても欲しかった」
と近藤は伊東を持ち上げる。
「確かに。武田君の考えはいかにも古い」
と伊東は受け、話は武田観柳斎の人物評に行くが……。
「時局に通じ豊かな見識を持って判断できる人物」
といえば、かつて山南敬助(堺雅人)がいた。かつて山南のいた場所に伊東は収まっているわけだが。
もちろん近藤は山南のことを思い出しているのだろうが、心の傷に触れたくないのだろう。
伊東もあえて武田のことに話をそらし、近藤の面目を保っている。
本の購入資金のために、勘定方の河合耆三郎(大倉孝二)から50両を無理やり借り、購入する武田。
少し遅れて土方歳三(山本耕史)もこの本を買いに来るが、時既に遅し。どうやら本を購入したのは、武田だと判明。
50両の出所を怪しんだ土方は、帳簿の照合を行い、50両の不足を発見。河合を責めるが、真実を語らず、10日後までに河合の実家から50両が届かなければ河合の切腹、ということになる。
日は過ぎていくが、河合の実家からは一向に金は届きそうにない。
河合の父親は出張中で、手紙を読んでいないようである。
河合も新選組メンバーにも焦りの色が出てくる。
観柳斎は本を本屋に返しに行くが、ライバルの伊東甲子太郎もこの本を狙っていたと分かり、返品をやめる。
河合はついに土方や井上源三郎(小林隆)に本当のことを打ち明け、土方・井上は観柳斎を取り調べるが、観柳斎は知らぬ存ぜぬを貫く。
止む無く切腹の段取りを話し合う幹部連。土方から介錯を頼まれた斎藤が、珍しく断る。
ということで、窓側幹部の谷三十郎(まいど豊)が介錯を引き受ける。
「河合も運がなかった。近藤さんがいれば救ってくれたはずなのに」
と言う土方に、珍しく斎藤が意見する。
「だったら救ってやればいい。近藤さんにできることをなぜあんたができない」
「それは俺の役目じゃねえ」
と言って立ち去ろうとする土方。
そこに永倉新八(山口智充)が現れる。
「河合の切腹は許さん。」
土方の返答は、意外なものだった。
「ここで河合を救えば山南の死がむだになるのが分かんねえのか。
山南を死なしたってことは、一切の例外を認めないってことだ」
これには一同、何も言えない。
しかし土方の思考は、硬直化している。
近藤が救ってくれるということが分かっているのなら、河合の命を近藤お預かりという形にして、近藤が帰ってくるまで待っていればよかったのである。何で急いで切腹さす必要があるのか。
やはり切腹という一大事を決済するのは、プレジデント(社長)の役割である。副社長が決めるべきことではない。
「それは俺の役目じゃねえ」
というセリフは、こちらの方に使うべきである。
そして、温情は近藤、厳しさは俺、と思い込んでいるようだが、このように役割を固定化して思い込んでいるのも、硬直化した思い込みである。
温情の中に厳しさがあってもいいし、厳しさの中に温情があってもいい。いや、あってこそ人間的魅力が増すものである。
俺には温情は似合わない、と思い込んでいる土方の思い込みは、現代サラリーマンの言語に翻訳すれば
「それは私の仕事ではありません」
と言っているのと同じである。
また、河合を切腹させる理由として山南の切腹を持ち出すのも間違った思い込みではなかろうか。
山南も、こんなことの引き合いにされるために切腹したのではないだろう。
硬直化した組織を軟らかくするため、もっと柔軟になってほしいがためにあえて犠牲になったのではないだろうか。
これではますます泥沼に入り込むようなものである。
そしてとうとう10両は届かず、河合は主だった隊士に見守られながら切腹する。
谷は介錯を仕損じ、慌てて介錯に向かおうとする斎藤より早く、沖田総司(藤原竜也)が止めをさす。
新選組のメンバーは誰もが、河合は観柳斎をかばっている、と知っていた。誰もが河合に死んでほしくないと思っていた。
それは幹部連や土方にしても同じである。
ところが、なぜか組織の論理というか建て前のために、皆が望まない切腹が実行されてしまう。
硬直化した組織に人が振り回されているのである。
組織はメンバーの実力を発揮し、メンバーの目的達成のためにあるものである。
組織は使うためにあるのであるが、逆に組織に使われ・メンバーを縛っているのが今の新選組だろう。
新選組に集まった実力者たちも、バラバラのような感じである。
今回問題となった高価な本も、新選組全員の財産として、新選組の公費で購入すればよかったのである。
ところが、武田にしても伊東にしても、自分のポケットマネーで自分の私物として購入しようとしている。
どうもこれでは、この組織は硬直化していて将来は危ないぞ、という印象である。
長州では、近藤は交渉に苦労していた。薩摩と裏で手を握った長州は強気の交渉を行い、
重臣が出てこない。下っ端に向かって必死に抗議する近藤。
別室で伊東は、随行した腹心・加納鷲雄(小原雅人)に得意の批評を聞かせる。
「新選組は必ず時代から取り残される。武士道を重んじ隊士を法度で縛り付ける。
彼らの居場所はいずれどこにもなくなる。
我々も次の道を考える頃合かもしれないな」
新選組の限界がはっきりと見えてきた悲しいエピソードである。
こういった限界を見せていくのが後半の狙いでしょうが。
前半の、浪士組参加前後で試衛館の仲間とハングリーに熱く活動していた頃が懐かしい。
芹沢鴨(佐藤浩一)の死を境として、『新選組!』は二部構成になっているのではないか。
喜劇調の第一部、そして悲劇主体の第二部。
第一部は、近藤勇を主人公として近藤を中心に動いている。
そして、第二部は、土方を主人公として土方を主人公として動いている。
河合耆三郎に責任をなすりつけて生き延びた武田観柳斎。この人の今後もあやうい。
新選組内での彼の信頼は失墜してしまった。
近藤は伊東に武田をかばうようなことを言っていたが、さすがに今回は見放されるのではないだろうか。私としては、キャラクター的に好きな人物だったのだが……。