(あらすじ)
トランクの中から美人の死体が発見された。死体の胸にはナイフが刺さり、ナイフの根本にはスペードのクイーンのトランプ札が。
トランクを運んでいた容疑者は耳が聞こえず、話すことができない。
警察本部長はかつて名探偵と言われていたレコック先生に相談に行く。
レコック先生は今はパリ警察を引退し、楽隠居の生活を送っていた。
レコック先生は幾つかの助言を与え、イギリスから来たというトリハ探偵を推薦してこの事件の捜査を断った。
しかしトリハ探偵も加わった捜査は手違いの連続で容疑者を取り逃がし、あろうことかレコック先生の息子・ルイが真犯人として浮上して捕えられ、レコック先生自身も捜査を妨害したということでお尋ね者の身となってしまった。
ルイの死刑実行の時が迫る!果たしてルイが犯人なのか!?
【ルコック探偵最大の危機!】
本作品では、ルコック探偵はパリ警察を引退して悠々自適の楽隠居生活を送っています。
息子ルイの結婚も間近に迫り、週一回、息子やその結婚相手のホンダ家での食事が楽しみな生活。
しかしその安穏な生活も一転し、ルイが殺人容疑で捕えられ、死刑を宣告されます。
さすがのルコック探偵も息子の一大事だということで、取り乱す場面も多々あります。
もしこれがシャーロック・ホームズだったなら、心の中はともかく、表面上はポーカーフェイスを装いそうですが。
(書誌的事項)
【今回私が読んだ版は】
小学館少年少女世界の文学28 日本編3 1969年12月25日発行
『死美人』
黒岩涙香(作) 柳柊二(画)
http://nazede.gozaru.jp/list07.html
フォルチュネ・デュ・ボアゴベが描いたルコック探偵シリーズのパスティーシュ『ルコック氏の晩年』を黒岩涙香が翻案した作品と言われています。
「翻案」は「翻訳」とは違うのでしょうか。
原作とどの辺り、違っているのでしょうか。
もちろん本書では、黒岩涙香版が少年少女向けにやさしく書き直されています。リライトが誰の手になるかはクレジットされていません。
しかし、少年少女向け文学全集に黒岩涙香の探偵小説を収録するとは、思い切った選択です。
小学館の少年少女向け文学アンソロジー全集は、古い順から3種類確認されています。
★少年少女世界の名作文学(全50巻)
(これらを2冊ずつ合本した版もあり)
http://nazede.gozaru.jp/meisakubungaku.html
★カラー版少年少女世界の文学(全30巻)
http://nazede.gozaru.jp/list07.html
★少年少女世界の名作(全55巻)
http://nazede.gozaru.jp/meisaku.html
本書はこの2つ目の30巻版全集です。30巻と巻数が少ないだけに、他の2つの全集ほどマニアックな掘り出し物的作品の収録は少なく、メジャーな定番作品がほとんどなのですが、まさか『死美人』が収録されていたとは。
しかも、一番古い50巻版では『河畔の悲劇』、一番新しい55巻版では『ルコック探偵尾行命令』と、3つの全集全てにルコック探偵ものの違う作品が入っているという、素晴らしい編集方針がなされています。
今の言い回しを使うと、
「この選択は神」
とでも言うのでしょうか。
■[名作文学]ルコック探偵 河畔の悲劇(オルシヴァルの犯罪)
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20111221/p1
■[名作文学]ルコック探偵尾行命令(ネタばれ注意!)
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20120106/p1
あと面白いのは、パリが舞台なのに、イギリス人のトリハ・イクスケ探偵を含め、人名が日本人風のカタカナ表記になっている点です。
涙香版では日本が舞台で、人名も日本人名になってるのかなと思えば、涙香版でもパリが舞台で、人名は何と漢字表記の日本名になっていました。
発表当時は人名は漢字表記の方が分かりやすかったのでしょうか。
(人名の例:少年少女世界の文学/黒岩涙香)
レコック・ド・ゼンチール 善池零骨(ぜんちれいこつ、れこつく)
ルイ 善池類二郎
ホンダ・テルコ 誉田照子
ヒエダ刑事 稗田守
アダチ刑事 足立飛蔵
トリハ・イクスケ 鳥羽育介
バン大佐 伴大佐
ヤナギダ・デンゾウ 柳田伝蔵
クラバ・タマコ 倉場お珠
アベ夫人 阿部夫人
ホリ老人(ドイツ人の私立探偵) 日耳曼人堀何某(ぜるまんじんほりなにがし)
ハシダ・マリイ 橋田鞠子
これらの漢字人名を眺めているだけで戦前探偵小説の雰囲気が漂ってきますね〜。類二郎には早世した兄が存在したのか!?念のため、お珠ちゃんは子どもです。さすがに小学館版では“タマコ”に変えられてますね。日本人の名前も変わりけり。
中でも“日耳曼人堀何某”なんて最高です。
日本語はこんな味わいある言葉だったんですね〜。こんな言い回し、次代に継承していきたいものです。意外と漫才やコントで使えばうけるかも。
『死美人』黒岩涙香版、旺文社文庫から出ています。
死美人 (1980年) (旺文社文庫)
開いて見ますと、小さな文字が詰まっています。改行もほとんどなく、ページの始めから終わりまでぎゅうぎゅう詰めです。しかも漢字が多いので、ページ全体が黒っぽい。
文体も、黒岩涙香は江戸時代生まれで明治・大正時代に活躍されたという方なので、古めかしい文体です。物語自体は非常にスリリングで面白いのですが、読みこなすのは骨が折れそうです。
だからまず、小学館の少年少女世界の文学版で流れをつかんでから原作の興味のある部分を拾い読みするのがよろしいかと。
あと、吉川英治が涙香『死美人』をさらに翻案した『牢獄の花嫁』という作品や、
江戸川乱歩が涙香『死美人』を“現代語訳”した版もあるようです。
うろん[uro.n] 涙香「死美人」
http://uro-n.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_fec1.html
小学館の少年少女世界の文学版では、巻末で「日本読書学会 飛田文雄」という方の解説があり、そこでは、『死美人』の原作は、
ヒュー・コンウェイの『ザ・ダーク・デーズ』だ、という記述があります。これは何かの間違いでしょう。
レコック先生とホンダ・テルコ嬢とその母親
レコック先生と息子・ルイ
レコック先生はこんな頭頂部の禿げ上がった白髪のおじいさんに描かれています。往年のような体を張った捜査はしんどいでしょうが、息子の危機に奮闘されました。
■[名作文学]ルコック探偵 河畔の悲劇(オルシヴァルの犯罪)
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20111221/p1
■[名作文学]ルコック探偵尾行命令(ネタばれ注意!)
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20120106/p1
■[名作文学]世界推理小説大系第2巻 ガボリオ 永井郁・訳 東都書房
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20120131/p1
黒岩涙香
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%92%E5%B2%A9%E6%B6%99%E9%A6%99
フォルチュネ・デュ・ボアゴベイ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%8D%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%82%A2%E3%82%B4%E3%83%99%E3%82%A4
国内外のミステリー・推理小説のデータベースサイト Aga-Search
フォルチュネ・デュ・ボアゴベ
http://www.aga-search.com/442fortuneduboisgobey.html
死美人
http://www.aga-search.com/40-6lecoq.html
ミステリの歴史 ボアゴベ記載のページ
http://www.asahi-net.or.jp/~jb7y-mrst/HST/06_01.html
夢現半球 黒岩涙香を読む
http://homepage3.nifty.com/iwawi/dozou/kansou2/kuroruik.htm
宮澤の探偵小説頁 黒岩涙香作品目録
http://homepage3.nifty.com/DS_page/kuroiwa/list.htm
復刊ドットコム復刊リクエスト 死美人
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=15151
乱歩の世界 (旧)真実究明掲示板の過去ログ3
「探偵同士による推理合戦」という要素
ついでながら『死美人』は吉川英治の手で『牢獄の花嫁』に翻案されて
http://rampo-world.com/kakolog/sinzitulog3.html
↑【ネタばらし注意!】
『死美人』に言及があります。
但し、【ネタばらし注意!】
時代劇スペシャル('81/4〜9)
(『牢獄の花嫁』映像化リストの記載があります)
http://www.geocities.jp/kmkr_01/jidaigekisp.01.html
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