2022―これから10年、活躍できる人の条件 (PHPビジネス新書)
先日、「2022―これから10年、活躍できる人の条件」の第1章について、歴史に学ぶことと未来予測という観点から検討してみました。
■[日々の哲学]「歴史に学んで未来を予測する」ということとは?
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20151106/p1
今回は、第2章と第3章について検討してみたいと思います。
第2章 平成「ええじゃないか」が、なぜ必要か?
140年前の時代転換(明治維新)で犠牲が少なかったのは、「おかげまいり」があったからであり、これは、相当頭のいい黒幕が仕掛けたのではないか、と神田さんは推測。
面白い仮説です。真相はどうなんでしょうか。
wikipedia:お蔭参り wikipedia:ええじゃないか
それで、平成の時代転換期も、この“祭り”を利用しよう、ということです。
「他国では、政府に対する不満、格差社会に対する不満が、人々をデモへと駆り立てている。日本では、なぜデモにならないのか、と疑問に思う人がいる。
それは私たちが戦いではなく、祭りを通して世の中を変えたいという記憶が、おそらくどこかに残っているためだろう。
私たちは、ええじゃないかと踊っているように見せかけて、実は、世界よりい一足先に、大きな未来の扉を開いていく。日本は、そういう国なのである。」
私としては色々と突っ込みどころある文章です。
まず、
「それは私たちが戦いではなく」
という文章ですが、デモは「戦い」ではなく、民主的国家の国民に認められた正当な権利です。「戦い」ではなく、「デモ」です。
経営コンサルタントが書く自己啓発書は、政治に対する批判をスルーしますね。こんな風に、デモに対するマイナスイメージを植え付け、結果的に、お上にとって都合のいい従順な奴隷へと洗脳していきます。
谷本真由美さんが“キャリアポルノ”と批判している本の類いではないでしょうか。
キャリアポルノは人生の無駄だ
http://wirelesswire.jp/london_wave/201211260725.html
■[日々の哲学]歴史ポルノはオナホで自家発電するのと同じですよ
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20121127/p1
また、日本ではデモは起こらないという記述も、1959年(昭和34年)と1970年(昭和45年)に発生した安保闘争の歴史を無視しています。
wikipedia:安保闘争
また、
「祭りを通して世の中を変えたいという記憶」とは、お花畑的ニッポンスゴイ論ですか?
私は、「お上には黙って従え」「お上に逆らうと大変なことになる」或いは「お上に逆らうのはアカ、反日、サヨク、怖い人」という、江戸時代から太平洋戦争にかけて行われていた言論統制、そして戦後のマスゴミを通して行われているマインドコントロールの効果の方が大きいと思います。
(もちろん、キャリアポルノや愛国ポルノもその一翼を担っている)
そして何より、2011年(平成23年)から始まった脱原発デモをスルーしています。(本書執筆時には発生していたはずです。)
首相官邸の前で 企画・製作・監督 小熊英二
http://www.uplink.co.jp/kanteimae/
さらに、2015(平成27年)の夏には、安倍政権の“戦争法案”強行採決反対デモが発生しています。
それくらい安倍政権の軍国主義的悪政がひどすぎたのです。
そしてこの反戦争法案デモにおいて“SEALDs(シールズ)”というグループが有名になりました。
このシールズが行う抗議行動は、今までの古い形のデモとは違う、と話題になりました。
もしかすると、これこそが平成の“ええじゃないか運動”かもしれませんね。
本当にこのままええじゃないか、ええじゃないかと安倍悪政を退場させられればいいのですが。
SEALDs公式サイト http://www.sealds.com/
wikipedia:自由と民主主義のための学生緊急行動
第3章 踊る中国 沈む日本
中国と日本の人口ピラミッドを比べ、日本は高齢化しているから衰退するとか、高齢化ビジネスにチャンスがある、とか論じています。
同じ高齢化ビジネスを論じても、前回触れた堤未果さんの著書では、
「アメリカのグローバル企業が日本市場を狙っている」
という観点から書かれています。
ここがTPPを楽観的に見るか悲観的に見るかの違いでしょう。
■[健康][経済]日本の医療制度の「既得権益」で守られているのは、一般の国民なのです。
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150913/p1
また、人口ピラミッドを比べるより、収入ピラミッドを比べてほしいですね。
今後の日本社会は、中間層が減少して一部の富裕層と大多数の貧困層に二極分化し、格差が拡大する社会です。
(法人税減税、消費税増大、累進課税から逆進性へ、再分配機能の低下などの政策がもたらす)
このような社会がどのような事態をもたらすのか。
最近では、ピケティ教授が問題提起され、話題となりました。
古典的研究では、エーリッヒ・フロムが、中産階級没落によってヒトラーが台頭したメカニズムを分析しています。
wikipedia:トマ・ピケティ
wikipedia:エーリヒ・フロム wikipedia:自由からの逃走
本書『これから10年〜』は、売れっ子経営コンサルタントが書いた楽観的でバラ色の面白い未来予測の本。
確かに読んでいて面白いのですが、非現実的で地に足がついていないと思います。
本当は、どちらか一方に偏らず、両方読んでエンタメな楽観論にもアカデミックな悲観論にも対応できる柔軟性が必要なのでしょう。
また、それができてこそ、この大激動の時代を生き延びられるのだと思います。
……と自分に言い聞かせ、目指そうとする。現実の私は、学問も教養もエンタメ性もない無学な悲観論者なのですが。
偉そうに批判しましたが、神田昌典さんの足元にも及ばない存在です。
2022―これから10年、活躍できる人の条件 神田昌典(3回にわたる感想文)
■1[日々の哲学]「歴史に学んで未来を予測する」ということとは?
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20151106/p1
■2[憲法]神田昌典の名著をあえて“キャリアポルノ批判”という観点から批判してみる
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20151112/p1
■3[経済]これから10年、なくなるのは会社ではなく正社員ではないですか?!
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20151120/p1
wikipedia:神田昌典
出版社による紹介ページ http://www.php.co.jp/2022/
『2022−これから10年、活躍できる人の条件』公式ファンページ
https://www.facebook.com/2022world
ブクログ
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