『うらなり』で考える日本人の国民性

　　うらなり (文春文庫)　

　うらなり先生の視点から見たもう一つの『坊ちゃん』こと、『うらなり』について感想を述べました。

■[名作文学]うらなり先生の見た坊っちゃん
　　　 http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150404/p1

　　
　本作品で、うらなり先生は、坊ちゃん先生の行動が理解不能だったと告白しています。

「男には人の心に土足で入ってくるようなところがあった。」
「自分の考えや行動はよろず正しいと思っているらしいのが私とは合わなかった。合わないというよりも迷惑である。」

……というような記述が度々繰り返されています。

「五分刈りのあり方というか、発想が依然としてわからない。私に対して一貫して同情的だった理由もわからぬ。」

と、赤シャツや野だいこ以上に坊っちゃんに対して辛辣な書き方が目立ちます。

　そのような記述を見ると、やはり私はうらなり先生ではないようです。
　もし私が回想するならば、いつまでも狸や赤シャツや野だいこに対する恨み辛みを忘れずに書きたてるだろうし、一方、それらに敵対していた山嵐や坊っちゃんを持ち上げるでしょう。
　私がもし当時の愛媛の学校の教師として赴任したとすると、やはり古賀先生に同情して堀田先生に加勢し、赤シャツや野だいこと対立していたでしょう。
　坊っちゃん先生そのまんまです。
　私にとっては、本作品のうらなり先生の発想の方が分かりません。
　というと、私は、外から見える行動はうらなり先生で、頭の中は坊っちゃんということです。
　理想（思うこと）に現実（行動）が伴わないという、一番ストレスが溜まる組み合わせです。
　　
　しかし、権力をかさに他の者を従わせようとする狸や赤シャツ、それに追従する野だいこは、いつの世にもいるのではないでしょうか。
　そして、そのような存在に対して反発する山嵐や坊ちゃんのような人々も、一定数はいるのではないでしょうか。
　しかし、いつの世も多数派は、野だいこのように赤シャツに追従したり、うらなり先生のように、坊ちゃんの行動を奇異に思うような人達なのではないでしょうか。
　権力の横暴が自分に関係ない時は他人事なのはもちろんのこと、権力の矛先が自分に向かってきた時でさえ、粛々と甘んじてそれを受け入れるという。
　うらなり先生はマドンナと離され、粛々と日向の延岡に向かいました。
　それでも結局はいい職場にもいい結婚相手にも恵まれ、不満ない人生を送っています。
　つまり、日本人の国民性とは、お上には逆らわず、粛々と長いものに巻かれて生きるのが美徳だと。
　　
　例えば、2015年現在の日本では、安倍政権による言論弾圧が進行しています。
　いわば、赤シャツならぬ、安倍シャツです。
　そして安倍色のシャツを来たミニ安倍・アベシャツ隊といった者が、そこら辺に入り込んでいます。
　例えば、NHKの籾井勝人だとか、テレビ朝日の早河洋や見城徹などです。
　そして、例えば、翁長雄志沖縄県知事だとか、古賀茂明といった人が、散発的に抵抗しているのです。
　いわば、山嵐や坊ちゃん的存在ですね。
　野だいこのような連中は、もう名前を挙げきれないくらい大量に湧いています。ゴキブリや蛆虫の大発生です。
　そして、一般的な国民の大多数は、なぜ沖縄の人や古賀茂明という人はあんなに騒いでるんだろうと、理解できないのではないでしょうか。
　本作品でうらなり先生が坊ちゃんを理解できなかったように。
　最初から権力に立てつかず、粛々と従っていれば負けることはないのです。
　どんなに生活が苦しくなっても粛々と耐えていれば、反逆者ということにはならないのです。
　このまま日本は粛々とアベシャツの公私混同私物化国家になっていくのでしょうね。
　そしていつの時代も、山嵐や坊ちゃんは敗北していく存在なのでしょう。
　いつの時代でも繰り返されている悲喜劇。
　　
　しかしこうやって見ると、私は、恋愛に関してはうらなり先生で、政治に関しては坊ちゃん先生のようです。
　一番生きにくい、損を見る組み合わせです。
　これが逆の組み合わせだと生きやすいし、一般的な国民の大部分はその組み合わせでしょう。
　やはり私も敗北していく存在なのでしょう。

　　うらなり (文春文庫)　

　wikipedia:うらなり　 wikipedia:小林信彦　 wikipedia:坊つちやん

■[名作文学]うらなり先生の見た坊っちゃん
　　 http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150404/p1
■[名作文学]【百年読書会】『坊っちゃん』その後おれはうらなりになった
　　http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20090709/p1
■[名作文学]朝日新聞再掲　夏目漱石「こころ」を読んで
　　http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20140925/p1

少年少女・ネタバレ談話室
　贋作『坊っちゃん』殺人事件　の暗澹
　　http://sfclub.sblo.jp/article/86829531.html
　四国・坊っちゃん列車殺人号　ネタバレ感想会
　　http://sfclub.sblo.jp/article/115635368.html
■[憲法]安倍政治の行き着く先　オーウェル『１９８４年』の世界
　　http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150715/p1　

猫を償うに猫をもってせよ
　2007-04-23 大衆文藝評判記2007
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Junk Stage >> 「ことば」という場所で「世界」と出会う。
　小林信彦の二つの作品−−ふたつめは『うらなり』（文藝春秋社）です−
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